その女、私です。【灰谷竜胆】 (ページ7)

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7 竜胆ページ7

「一目惚れってしたことある？」

ありえない、みたいな顔をしている斑目と三途。

奥の方で九井は携帯をカコカコと弄っていて俺の声なんて聞こえてないみたい。

イヤに晴れた空の下で男ばかりの屋上で食べる飯。あの人も外で食べてるんだろうか。

ずっとあの人のことばかりを考えてしまう。何をしても頭をよぎるのはあの人のことだけだった。

「お前、一目惚れしたのかよ」

「そういう訳じゃねぇよ」

「いや、したやつはそういうだろ」

「は？何を根拠に言ってんの？」

「蘭は知ってんのかよ」

そう言われて体が強ばった。言っていない。正式には言えない。

兄ちゃんにバレたら多分面白目当てで余計なことをする。最悪の場合盗られる。それだけはごめんだ。

温い夏風が吹いてこの場にいる全員の髪を風に巻き込む。

その風が止むと同時に九井の手が止まった。九井の何かを見透かしたような真っ黒な瞳が俺を射抜いた。

その瞬間ふっと、馬鹿にしたような笑いを見せた。

「見た目から入る恋なんて夏風邪の次に質が悪いんだぜ。この前女と喧嘩して懲りたんじゃなかったのかよ」

人が気にしていることをズカズカと遠慮なく吐き捨てた九井の言葉は今の俺に深く傷をつけた。

確かに俺はこいつらにもう恋愛事なんてしないと言った。

それなのに今のこの現状は宣言とかけ離れている。

だけど、それほどまでに俺はあの人に惹かれて。そして、奪われてしまったのだ。

生まれて初めてだった。自分の心まで持っていかれることなんて。

馬鹿げてるのはわかっている。

見た目から入るなんて中身も何も知らない見ず知らずの女を好きになるなんてそんな理性の欠けらも無い恋なんて頭が悪すぎる。

そう頭でわかっていても俺の心はそれを認識するどころか彼女の色で染まっている。

彼女に染め上げられるのももう時間の問題でしかない。

名前も知らなければ年齢もなにも知らない。それどころか彼女は俺の事すら知らないだろう。

「俺、頭おかしくなったかも」

「それは元々だから心配すんな」

「恋は盲目だとか言うし。まぁ、頑張れよ」

「俺はどうなっても知らねぇぞ？一応忠告はしたからな」

俺はどうしてこいつらに相談なんてしようと思ったのだろうか。本当に頭がおかしくなったに違いない。

これも全部彼女が俺の一部を奪ってしまったからだ。

だから、彼女には責任を取ってもらわないと割に合わない。

「死ねよお前ら」

ついでにこんなバカ丸出しの自分も死んでしまえばいいのに。