甘い ページ6
『ごちそうさまでした』
晩御飯の後に手を合わせるとキャロルがこてんと首を傾げた。
『日本ではこうして食事の前と後に感謝の言葉を述べるんですよ。』
興味深いです、と言いながら銀製のおぼんにプレートを乗せて奥のキッチンに運んでいった。
食後に薄めの緑茶を湯飲みに注ぐ。
…人間の頃は毎日こうして日本茶を飲んでいたのだな、と４００年前の記憶が唐突に蘇った。
向こうの方から水が流れる音とお皿やシルバーの音が聞こえてくる。
ゆっくりと再び緑茶に口をつけると後ろからフィニさんに鮮やかな色合いのお菓子が乗った小皿をサーブされる。
漆塗りの小皿に乗っていたのは寒牡丹の練り切り。
薄い桃色の外側は上に行くにつれて白くグラデーションになっている。
内側にははっきりとした黄色。
「凝って日本の練り切りを作ってみました。
口に合えばいいのですが」
黒文字を手に取りゆっくりと魅惑的な甘味に沈める。
口に運べば滑らかな舌触り。
いつの日か食べたようなそれに舌鼓をうつ。
彼曰く、屋敷の管理以外に暇な時間があった時には和菓子の練習をしていたのだとか。
隣に座るレギュラスもコクリとうなずいてフィニを見上げた。
「すごいですね
ここまで美しく、美味しいものは滅多にありませんよ」
控えめな甘み、ふわりと感じる小豆。
バランスが取れたその練り切りは輝いてすら見えた。
『尊い』
その一言に尽きる。
久しぶりの落ち着いたその味に語彙力をごっそりと持って行かれた。
ーーーーーー
キャロルとフィニが４階の自室へ続く階段を上がるのをみて、満たされた心のままゆっくりと寒い廊下を進む。
レギュラスの暖かい手を握って窓の外に目をやった。
窓枠には数センチの雪が積もっている。
庭にはその数倍はあるであろう白い絨毯。
「窓際は冷たいですよ。
お風呂にでも浸かって、部屋に戻りましょう」
ウォークインクローゼットに立ち寄り、レギュラスが有無を言わせずパジャマを手にした。
隣のバスルームの壁に手首が押し付けられる。
突然のことにびくりと肩を揺らせばレギュラスの熱のこもった目と合う。
「A」
手にしていたカーディガンがするりと腕から落ちて床でパサっと音を立てた。
キスを数度繰り返したのち彼は私から離れて外へ足を向ける。
ごゆっくり、と紳士的な笑顔を見せて浴槽にお湯を張ってくれた。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年1月10日 2時
