【ハリーポッター】吸血鬼少女とあの方【８章】 (ページ39)

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覚悟ページ39

「流石にその格好ではまだ寒いだろう。」

城までの長い道を目で追ったクラウチ氏は杖をまた一振りして薄めのマントをどこからか取り出した。
一般の女性用しては短めとはいえ私の足首まであるそれはグレー、下の方は黄色い花が刺繍されていた。

花はおそらく蝋梅(ろうばい)。
小さくて、内側が赤の可愛らしい花だ。

「これは私の妻がよく着ていた物だ…

冬には蝋梅(ろうばい)、春には宝鐸草(ほうちゃくそう)、夏には橙色のブーゲンビリア、そして秋には青のスターチスが現れるんだ…

彼女はユーモアに溢れた人だった…冬には春を思わせる色を、春には夏の色を…といった風にね。」

奥さんの話が過去形だったのに胸が少し痛んだ。

クラウチ氏は感情を抑えるためにか少し灰色の空を仰ぐ。

「良ければあげるよ。
このマントも、きてくれる人がいるほうが嬉しいだろう」

私はありがたく受け取ることにした。

彼も優しく微笑んでマントを上から下へと目をすべらせる。

『バーティ』

短く、彼の名前を呼んだ。
ハッとしたように彼は私に目を合わせる。
私を通して奥さんを見ていたのか、少し申し訳なさそうに眉をひそめた。

「すまない…
もうついたな。私はもうAに会うことはないだろう…

これからの幸運を祈る。
そして、幸せになってくれ。」

私が返答する間も無く彼は城の中に入っていき、ちらほらといる生徒に紛れて見えなくなった。

もう運命に逆らわないといったまっすぐな目。
私が助けたとしても、彼はバーティの存在を匂わせるために他殺に見せかけて逝くだろう。

アズカバンで死んだと思われていたバーティが実はお母さん、つまりクラウチ氏の奥さんで、バーティが高跳びしたのはバレている。
闇の勢力が動き始めている事がわかれば近くにいるバーティが元々嫌っていて邪魔な父親を殺した…
実際のところバーティは正体が気づかれようと気づかれまいといつかは殺していただろう。

それを逆手にとって、クラウチ氏はバーティの存在を知らしめようとしている。

元大臣候補のクラウチ氏が殺されたとなれば魔法省も、おそらくファッジも彼の方が復活したかもしれないことを視野に入れないといけないはずだ。

『…貴方も、奥さんと幸せになれることを…』
　
　
誰に聞かれることもなく、冷たい空気に飲まれていった。
　
　