わかったこと ページ26
『私、一つわかったことがあるんです。』
正面のカウチで何やら読んでいるレギュラスに声をかけた。
いつもより真剣な私の声色に彼はすぐに本をローテーブルにおいて目を合わせてくれた。
目には少し罪悪感を感じる色が見える。
昨日の首筋差し出し事件について反省しているのか、若干目が泳いでいた。
『吸血鬼は、片思いでも、味覚が変わるんです。
もちろん、それでも他の人の血を飲めますが、正直自分の血ですら超絶まずいし臭いので多分飲めたものではありませんが。
言葉で縛るとどうなるんでしょうね…これでも理性を総動員しているのに。
精神が崩壊しそう…』
顔をしかめるレギュラス。
拳が握られていて、手は真っ白になっていた。
言葉を紡ごうとかわいそうなくらい表情を強張らせる彼は右手で顔を覆った。
いや、そういう表情をさせるためにこの話題を振ったわけではないし、脱線した。
『それで気づいたんです。
昨日、貴方の近くにいて体に少しづつ魔力が流れてきて癒されたこと、喉の渇きが薄れたこと。』
もちろん、欲望を、本能を押さえつけるのには鋼の精神力が必要ではあるけれど、それを成し遂げるくらい造作もない。
彼を傷つけることを選ぶくらいなら、私は死を選ぼう。
『文書に残ってはなかったんです。
言葉で縛っていなくてもここまで変わるというのは、吸血鬼にとって最大の弱点になりかねませんから。
でも、反対に言葉で縛らなければ、血以外でも満たされるんではないかという仮説を立てました。』
ゆっくりと顔を上げたレギュラスは私の目を見た。
戸惑う彼は未だ声が出せなかった。
それもまぁそうだ。
死と生。
紙一重の状況で私が回復するなんて流石に怖いだろう。
殺されるとわかって捧げるより、はるかに。
決心するように彼は息を吐いて、両目頭をもんだ。
口を開く彼の目は未だ閉じられたまま。
「貴女は、僕が近くにいることで辛くないんですか？
僕には感じることはできませんが、貴女のその状況を見るに…かなり辛いはずです。
人間にはない強い本能が…貴女を蝕んで…」
驚かせないようにわざと少し音を立てて彼の方に足を進める。
甘い香りが私を満たした。
それをもっと近くで感じるように、私はうつむき気味の彼に腕を回した。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2019年1月10日 2時
