血 ページ31
…いつの間にか寝入っていたのか…
毛布が上からかけられていて、隣にはレギュラスがいつの間にか座っている。
「目が覚めましたか。」
彼の視線は少し冷たい。
その目線の先はテーブルで、寝る前に貪っていたタブレットが未だ置かれている。
何を言いたいのかはわかっているけれど、だからと言って私が何を言ったらいいのかを思いつかずとりあえず目を合わせてみる。
「…血がそこまで不足しているなら僕に頼むとか、あるでしょう。」
レギュラスは私に触れようと手を差し伸べてくる。
ゆるりと頬を撫でられ、髪の毛をすかれて、そのまま流れるように私の唇にキスを落とした。
『血を吸われるのは痛くて嫌なのでしょう？』
「貴女、わざと痛くしていたでしょ。」
なんのことだか、と彼の目線から逸らす。
『…だって命を救った後私にしつこく血を飲ませようとしてきたじゃないですか。
苦痛を味わせればそれもやめてくれるかなぁって。』
救ってくれた恩人だからなのかなんなのか、毎晩のように私のベッドに鎮座して、据え膳食わぬはなんとやら…と言わんばかりに首筋を向けてきたのを思い出す。
１ヶ月経ったくらいに毎晩この攻防を続けるのは面倒だと思って、思いっきり首に噛み付いてやったのだ。
それからは稀にしか首筋差し出しをやらなかったし、同居数年して力関係が逆転してきてからは逆に拒否られるようになるまでに至る。
毎度毎度、手加減なしに噛みつくという努力の賜物である。
「ほら、僕の血を。」
ここ数日間は三食肉食べてきたので空になるまで飲まないのであれば問題ありませんよ、とレギュラスはそう言った。
静かだった心臓の鼓動はどんどんと早くなっていって、しまいには身体中が震え始める。
ゴクリと生唾を飲み込んで、八重歯が伸びていくのをどうにか阻止しようと口元を両手で押さえた。
そんな私を見た彼は何を思ったか杖で首をひと撫でした。
鋭利な日本刀を肌に当てたように、ふつりと真っ白な肌に血が浮かび上がってくる。
その匂いは私の鼻孔を通り、口の中に広がり、味覚が、嗅覚が、何もかもが…
頭の芯が強く揺さぶられているような
お腹の底から、まだ小さくて自我のない私達の子供がそれを強く求めて
口の中に、ずっと求めていた至高の味が広がった。
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作者名：あやにゃん | 作成日時：2020年5月5日 2時
