第一幕 ページ10
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晴天に向けて真っ黒な鴉がばさっと音を立てて飛び立ち、黒猫が横ぎる。
不吉な予感だけが行進する道のりだ。
「見事な不吉のフルコース...」
「無理もないわね、だってここ
____魔王の居城なんですもの」
【カエレ】
ひときわ大きな鴉が喋った。やはり魔物のようだ。
それを機に、アイリーンを取り囲むように鴉の声が反響する。
【カエレ、ニンゲン】
【ココカラ先ハ、魔王様ノ城】
【魔王様、読書中】
妙になごむ状況報告が混ざっていたが、鴉が喋るこの状況でさすがに笑う気はなかった。
【何シニキタ、娘。シニタイノカ】
【コイツ昨日 婚約者ニ捨テラレタ娘ダ】
ぴくり、と目尻を吊り上げた。
かあかあと鴉が嘲笑のように続ける。
【タチサレ!キラワレモノ!】
「.....先触れなくこんな時間に訪問する無礼はお詫びするわ!
わたくしは、アイリーン・ローレン・ドートリシュ!
貴方達の主君に所用がある!
謁見叶うまで帰らぬ所存です!!」
そう言い捨てて、アイリーンは優雅に歩く。
すると何故かわめくのをやめた鴉が、
陰鬱な森の小道を進むアイリーンを追うように空からついてきた。
ふと見ると、茂みの中もアイリーンを追うようにがさがさとうごめいている。
自分から負けるなど許されない。
そう教育を受けたアイリーンは、無視して前へ進む。
やがて視界が開けた。
星のない夜空の下に、廃城が現れる。
あちこちが崩れかかっており、タペストリーはすすけて破れたまま、
蔦に絡まれた支柱は折れていた。
城門付近の木は枯れ果てており、小さな池はドス黒く濁り、底なし沼と化している。
アイリーンを追い越した鴉たちが降り立ち、いかにもな雰囲気を醸し出していた。
さすがに気を引き締め直した。
「(本当は優しい性格なはず......だけれど、正ヒロイン限定とか___あり得るわよね)」
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