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「...礼だなんて、わたくしは何も.....」
「魔物との争いを起こさぬよう、
あなたは魔物を傷つけたのが自分であるという濡れ衣までかぶろうとした。
自分が傷つけられたならば誰も庇わないからと、そんな悲しい理由で」
クロードの言葉に周囲が目配せし合う。
マークスが眉をひそめ、
アイリーンと先程魔物の子供を傷つけようとした男子生徒達を見比べていた。
「助けられた魔物が、恩人であるあなたを侮辱する人間に怒っている」
そこでちらとクロードは背後の人間達に目を向けた。
震え上がったのはもちろん、魔物の子供に暴力を振るった男子生徒だ。
「____だが、あなたが許せと言うなら、今回は飲みこもう」
呆然とクロードの話を聞いていたアイリーンは、やっと気づく。
「(....助けにきて、くださったんだわ)」
アイリーンの濡れ衣をはらしに姿を現してくれたのだ。
そんなことをしても、クロードになんにもいいことなんてないのに。
「....いえ。その言葉だけで、十分です」
胸に手を置いて、アイリーンはやっと、それだけ答える。
クロードは頷いた。
「そうか。では不問にしよう___あなたに免じて」
最後まで念を押すことを忘れず、クロードはぱちんと指を鳴らした。
途端、アイリーンの周囲を光の粒が舞う。
魔法だ。引き裂かれた服が元に戻り、ついた泥も汚れもほどけて消える。
滲んだ腕の血も足の痛みもなくなった。
一瞬で起こった光景に、マークスもリリアも目を丸くしている。
「どこか痛みは?」
「だ、大丈夫ですわ」
「なら、私が屋敷までお送りしよう」
もう一度ぱちんとクロードが指を鳴らした瞬間、今度は真横に銀色に輝く馬車が現れた。
立派なたてがみを持つ黒馬による二頭引きの、豪華な馬車だ。
「ど、どこから出したんですか!?」
さすがに驚いたアイリーンに、クロードが目を丸くしたあと、かすかに笑う。
「(あ)」
冬なのに、花の香りがする。今、どこかで花が咲いた。どうしてだか、そう確信する。
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