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「わかるわね?
痛いだろうけど、少し我慢して頂戴。動かれるとこの罠をはずしてあげられないの」
じっとリボンを見つめる目が迷っている。
だが次の瞬間、アイリーンの体が後ろ向きに引っ張られた。
足首が嫌な音を立てたあとで、尻餅をつく。
「何をなさるの!」
「うるさい!人間を傷つけたんだから、こいつはもう殺していいんだろう!」
再び全身の毛を逆立てて唸り声を上げている魔物の子供を、鍬を持った男子生徒が取り囲む。
「やめなさいと言って____」
途中で言葉が影に飲まれた。
はっと顔を上げたアイリーンと同時に、男子生徒が情けない悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げ出す。
ぬっと壁を飛び越えて地面に足を着け、現れたのは魔物。
罠にはまって鳴いていた子供が甘えた声を上げる。
「(____これ、イベントの魔物……そうか、親!)」
クロードの言いつけを破り、結界を越えてさがしにきたのだ。
その瞳は怒りが燃えている。
この状況を見れば、当然だ。
罠にはまって前脚から血を滲ませた子供。不自然に曲がった後ろ脚。
人間に傷つけられた、そう考えない親はいない。
アイリーンを睨め付けた魔物が、恐ろしい牙が並んだ口を開ける。
吠えようとする仕草に、アイリーンは咄嗟に声を上げた。
「待ちなさい! 吠えては駄目、人がくる!」
制止したアイリーンは、立ち上がろうとして膝を沈ませた。
さっき男子生徒に押しのけられた時、足を挫いたらしい。
だが歯を食いしばって、這いずりながら罠に手を伸ばす。
「怒るのは分かるわ。でも後になさい、今はこの子が先でしょう!」
吠えるのをやめた魔物がぎょろりと視線を動かす。
その間に急いで罠の解除を始めた。
兄に教えてもらった手順通りに操作すると、すぐに噛み合っていた罠が開く。
か細い声を上げて魔物の子供が、親の元へ向かおうとする。
アイリーンは恐らく言葉が通じているだろう、親の方に声をかけた。
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