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明るい森の小道が一瞬で薄暗い魔王の森に変わった。
枯れた木の上には昨日と同じカラスの群れがいる。
ネズミやモグラに似た魔物達もいた。完全にアイリーンが取り囲まれている形だ。
「このカラスさんの命がおしくば動かないでくださいませ、皆様。
愚かな魔物だこと....人間を信じるだなんて」
「人間ノ台詞カ、ソレ!?」
アイリーンは、ぶるぶる羽の先まで震えているカラスをしっかりと抱き、
パラソルの先を突きつけながら優雅に笑う。
腕の中でカラスが呻いた。
「グ……何、シタ、娘……!」
「クッキーにしびれ薬を少々」
「殺ス!殺ス、娘!」
「あら、魔王様に迷惑をかけたいのですか? わたくしはドートリシュ公爵家の令嬢。
わたくしが魔物に殺されたとなったら、魔王様の立場が悪くなりましてよ」
薄く笑ったアイリーンを非難するように、があがあとカラスがわめく。
他の魔物達も殺気立っていた。
だが腕の中にいる仲間が心配なのだろう。
襲ってはこない。
かまわず、声を張り上げた。
「さあクロード様、この魔物を助けたければわたくしの前に出てらっしゃい!
でなければ今からこの魔物の羽を一枚一枚もいでハゲに」
台詞を爆風が遮った。
闇を模した黒髪。
宝石より深い輝きを宿した瞳が、空中からアイリーンを睥睨している。
「ごきげんよう、クロード様」
無言しか返ってこない。
だが、狙いの人物を引きずり出せたのだから十分だ。
「この方を治して差し上げられて?
時間がたてば平気になるはずですけれども」
クロードがアイリーンの腕の中でしびれているカラスに、そっと手を触れた。
瞬間、かっと目を見開いたカラスがばたばたと羽を動かし始める。
どうやらしびれが取れたらしい。
「さすがですわねえ」
感心するアイリーンの腕からもがき出たカラスが、クロードの肩に乗って叫ぶ。
「娘!殺ス!絶対殺ス!」
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