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「さらに、事業譲渡の承諾をサインして欲しいそうだ。
公に頭を垂れることによってお前の悪評を少しでもおさめてやろうという、慈悲だそうだよ」
全ての感情を押し殺して、アイリーンは肩から息を吐き出した。
「....つまり、欠席したらセドリック様の慈悲をはねつけたことになり、
出席したら事業を乗っ取られた挙げ句公衆の面前で二度目の婚約破棄をされる。
どちらでもいい笑い者ですわね」
「それで、お前はどうする?」
普通に考えれば選択は断るの一択だ。
どちらでも好き勝手言われるのだから、
サインだけ送りつけて欠席する方が面目は立つし時間も無駄にしない。
嘆いてみせれば周囲の同情もひけるかもしれない。
____だが、しかし。
「出席致します。喧嘩を売られたら買って叩き返す主義なので」
あれだけ啖呵を切っておいて、今更しおらしくしてもしょうがない。
同情もまとめて蹴飛ばしてやると、アイリーンは微笑む。
ルドルフが満足そうに頷いた。
「いいねえ。それでこそドートリシュ公爵家の娘だ。
ここまで馬鹿にされて尻尾巻いて逃げるような娘なら、
公爵家から除籍して下町にでも放り出してやろうかと思ったよ」
この父親なら泣き真似をしながら嬉しそうにやりかねない。
頬を引きつらせつつ、アイリーンはゆったりと頷いた。
「常識知らずとお父様も悪く言われるかもしれませんが」
「大丈夫だよ。
ちゃんとアイリーンのかげ口をたくさん聞いてうんうん頷いて謝罪して、
あとからリストに名前を書くよ」
「なんのリストか聞きませんが、お父様がよろしいのならそれで」
「じゃあついでに夜会までに事業の損失分を、ドートリシュ公爵家に補填しなさい」
なんでもないことのように言われて、眉をひそめた。
「さらっととんでもない要求を突きつけないでください。
損失を補填って、また新しい会社でも起ち上げろと?
わたくしはお兄様達ほど優秀ではありませんのよ。しかも二ヶ月でなんて」
「それは自分で考えなさい。
お父様は皇妃にもなれず、疵物のままですごす娘など持った覚えはないよ」
にこりと笑う父親の目が本気だ。
「ああ、それとシャントルイユ伯爵家の御令嬢が久しぶりにアイリーンに会いたいそうだよ。」
....はい?
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