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ドートリシュ公爵領は広く豊かだ。
だがその豊かさは平均値であり、土地が広い分の地方に格差が生じている。
そのため、豊かではない地域____
要は土地があるだけのだだっ広い田舎だ__
豊かにすべく、兄達はその土地に生息する植物の活用方法を考えたり、
特産物を作ることで領民の生活水準を上げるべく奮闘している。
そこへアイリーンも一枚噛ませてもらった。
公爵令嬢、しかも皇太子の婚約者が商売だ。
当然、批判は出た。
だが薬の開発は公共性が高いという理屈で周囲を黙らせた。
扱いの難しい薬品より先に、石鹸や軟膏、消毒液といった
気軽に使える安いものを市民に普及させることで利益も見こめた。
実はエルメイア皇室の財政は見た目ほど豊かではない。
だからせめて自分が嫁ぐ際に莫大な持参金を持てるよう、セドリックのために____
とそこまで思い出して頭を切り替えた。
「お父様にも了解いただけたはずですが、それがどうかなさいましたか」
「それらはすべてセドリック様に引き継がれることになった。
公共事業になったと言い換えてもいい」
「はい...?」
ぽかんとしたアイリーンに、皮肉な笑みを浮かべて、ルドルフが告げた。
「お前、事業のために設立した商会をセドリック様との共同名義にしていたね。
薬というのは毒物でもある。国の管轄におくのが妥当だと言われたら反論できないだろう?」
流通の確保、販売路から薬の処方箋まで準備し、試薬の評判は上々だった。
つまり。
「売上げだけ横取りですか!?」
愕然としたアイリーンの声に、ルドルフは楽しそうに笑った。
「リリア嬢がお前に任せっぱなしではいけないと進言なさったらしくてね。
セドリック様がやる気になられたそうだ。
セドリック様も商売をすることで庶民目線や金銭感覚を学べるかもしれないし、
ま、よいことだよね」
「いえいえいえいえ、横取りですよね!?いいところだけとっていったってお話では!?」
「これはお前の落ち度だよ、アイリーン」
柔らかく言われて、はっとアイリーンは口をつぐんだ。
父親の目が笑っていない。
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