悪役令嬢の幕開け ページ3
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思えば、幼い頃からよく変な夢を見た。
名前も分からない自分になり、消毒液の匂いがする白い部屋で、
仕組みが不可解な機械を持って、一人きりで遊んでいる夢だ。
夢なので詳細は思い出せない。
自分の名前ですら曖昧だ。
なのに。
“ またアンタはゲームばっかりやって__ ”
瞳の奥で白昼夢がものすごい勢いで再生された。
ぐらりと体が傾き、両手と両膝を冷たく固い床に突く。
忘れ物のありかを突然、全部思い出したような感覚だ。
津波のような情報量に襲われて、頭ががんがんする。
やがて焦点があった視界が、大理石の床を映し出した。
磨き上げられたそこには、自分の姿が映っている____はず、だ。
「(...この顔....ゲームで見たような....え、ゲーム?)」
長い睫毛を上下させた自分の正面に、誰かが立ちはだかった。
金髪の青年だ。唇を歪めて、膝を突いている自分を上から見下ろしている。
「そうして跪いて悲しんでみせ、同情をひこうとしても無駄だ。
君以外、ここにいる全員が分かっている。俺の婚約者であるのをいいことに、
散々横暴に振る舞った君に、同情の余地などない、とね」
「__セドリック、様?あなた、本当にセドリック様?」
か細くなった震え声に、金髪の青年は皮肉っぽく応じた。
「らしくないと言いたいんだろう? でも俺の素はこっちだ。
君は何年も婚約者をしていて、そんなこと一つ見抜けなかった」
ずきりとした胸の痛みが、現実感を取り戻させる。
そうだ、ここは現実だ。
そして、目の前の人物は、自国の皇太子
セドリック・ジャンヌ・エルメイア
幼い頃からの知り合いで、自分の婚約者。
そして、大好きだったゲームの攻略キャラだ。
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