・ ページ12
.
『わたくし、アイリーン・ローレン・ドートリシュ。
婚約者にフラれたショックで前世を思い出しまして、
バッドエンドを回避すべく、絶賛奮闘中です☆』
こんなことを口にすれば、過保護な兄たちに医者を呼ばれるか、
母から修業が足りないと訓練に駆り出されるのがオチだろう。
エルメイア皇国の最大貴族、王家とも血のつながりがあるドートリシュ公爵家の一人娘。
父は宰相、母は皇太后の姪であり社交界と軍部で一目置かれる公爵夫人。
加えて兄が三人いるという家族構成である。
末っ子で一人娘のアイリーンは大事にされて育った。
特に兄達の溺愛ぶりは有名だ。
だがアイリーンは知っていた。
それは自分が女で兄ほど優秀でもなく、決して敵にならないからだと。
除け者の気分だった。
だがどんなに勉強しても三人の兄はそれぞれ優秀で、どの分野でもとても追いつけない。
不貞腐れるアイリーンに、母は何度も諭した。
女性には女性の戦い方があると。
アイリーンがそれを理解したのは、八歳の時。
セドリック・ジャンヌ・エルメイアというまごうことなき皇子様に跪かれ、
婚約を申し入れられた時だった。
有り体に言って舞い上がった。
セドリックはとても素敵で、彼に必要とされると思うだけで自分に特別な価値が付加される気がした。
彼に嫁ぐならアイリーンは皇妃になる。
皇妃という名前の特別な臣下になるよう、父親に言われた。
それはアイリーンが初めて与えられた家からの期待でもあった。
礼儀作法にダンス、教養は経済から帝王学まで彼の助けになるべく、自分に叩きこんだ。
自分が賊に襲われたなどの事態も想定し、
足手まといにならないようひそかに剣の腕まで磨くという斜め上の努力もした。
色々できるようになると、セドリックが頼ってくれる。
皆もほめてくれる。
それが嬉しくて楽しくて、また頑張る。
26人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ