第四十訓 ページ41
『(ようやく、ここまできた……これできっと、゛あの人゛に繋がる手掛かりを…)』
土方の話を聞きながらAは腰に差した刀にそっと触れる
そんなAの様子を見ていた立花はふと昨日のことを思い出した
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〈ほら、お前の刀だ〉
沖田とAの一戦後、一度どこかへ姿を消した土方は暫くして一本の刀を持って戻ってきた
≪…!≫
〈(あれ?あの刀…)〉
〈その刀、俺たちに配られた物とは違うやつじゃねェか〉
同じ疑問を持った沖田が立花よりも先に反応した
確かに、浪士組にと配給されたソレとは違うようだ
沖田はAより先に刀を受け取ると興味津々な様子で鞘から引き抜こうとした
≪やめろっ!!≫
柄に手をかけた瞬間、Aは声を荒げて叫び、沖田から刀を取り上げた
ここまで感情を露わにするAの姿は立花も初めて目にする
沖田や土方、周りにいた者たちもAのその変わり様に目を見開いた
〈し、師匠?〉
≪…っ!≫
刀を抱きしめるように蹲っていたAに恐る恐る声をかけると、ハッとした表情で顔をあげた
≪ご、ごめん…≫
先程と打って変わり、
眉を下げて項垂れるAへかける言葉も思いつかず、その場の者たちは互いに顔を見合わせる
少し落ち着いたのか、Aは重々しく口を開いた
≪この刀は…私にとって大切な…命よりも大切な刀。あの人との唯一の繋がり…≫
師匠はそこで言葉を止めると、何か思いを馳せるように刀を抱きしめた
゛あの人゛とは誰なのか、そこまで言わしめる理由とは一体何なのか
各々疑問はあったのだろうが、誰も口を挟まず静かにAを見守っている
≪__松平公に頼んで、私の得物をこの刀にしてもらえるよう頼んでいたんだ。だから皆に配刀されたものと違う。我が儘は承知だけど、生きる時も死ぬ時も、この刀と一緒だって…あの時決めたから…≫
それは自分に言い聞かせているかのような言い方だった
Aは我が儘と言ったが、立花はそうは思わなかった
廃刀令が下されているこの世の中ずっと守ってきたのだ
そこまで愛せる刀があることは侍として誇りと言っても過言ではない
そんな己の命よりも大切だとまで言う
以前から侍であることに執念とも似た想いを秘めていることは節々で感じられていたが…
〈……〉
少し、寂しさが過ぎった
Aは他人との距離を一定以上縮めようとはしない
弟子とは名ばかりなのが現状だ
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作者名:あまね | 作成日時:2019年2月4日 23時