第三十一訓 ページ32
「…それでも、お前をこのまま隊に入れる訳にはいかねェ」
『……』
「屯所へ来て一か月弱、俺はお前の稽古姿をほとんど見たことがない。少し前までは怪我をしていたんだったな、俺たちの稽古をよく見ていたのは知っている。…が、完治した今も稽古に参加しないのは何故だ」
ギプスが外れて一週間程経つ
医者にはまだ激しい運動を控えるように言われていたが、ギプスが外れたその日からバリバリに自身の稽古は再開していた
それでも右足は何の問題もなかったし、あの日病院から屯所へ戻ってきた頃には、多少残っていた違和感もなくなっていた
要するにとっくに完治している
しかしAは皆との稽古には参加せず、相変わらず彼らの稽古姿を眺め続けていた
「し、師匠は人のいない場所、時間帯に稽古しているだけです!していない訳じゃありません!今朝だって、皆より早くに起きて稽古していました!」
反論しないAを庇うように立花が列を出て駆けてきた
「あんたは…立花…だったな」
「はい!俺は師匠の弟子です!師匠の強さは俺がよく知ってます!」
「柊に実力があるのかも重要だが、そもそも浪士組の規律を守る気もない奴がここにいる資格はない」
起床就寝時間、朝昼晩の食事の時間帯、稽古時間、風呂、諸々…
近藤が指揮を執るようになってから、このような決まり事ができるようになった
他にもいくつかあった気がするが、あまり覚えていない
これらは土方が全て考え管理しており、破ると切腹という何とも厳しい規律である
今は朝稽古の時間にあたるのだが、これも全員参加が義務づけられていた
『サボったりしてない、木刀振るだけが稽古に参加することでもないでしょ』
「…どういう意味だ」
『こうして稽古を見ることだって参加してるのと同じってこと。この二週間ずっと一人一人の素振りや試合を観察し動きの癖を見てきた。良い癖も悪い癖も、この頭に入っている。そしてそれらを教え、伸ばすこともできる…私ならね』
「……」
『ま、信じる訳ないか…あとは、私の実力だっけ?そんなの証明は簡単だ、私と一本勝負すれば分かることだし』
言葉なんかより剣を交えた方が手っ取り早いだろう
「そこまで言うなら見せてもらおうじゃねェか」
『私が負けたら大人しくここを出て行く。その代わり私が勝ったら…今後私が浪士組にいることに異議はなしでよろしくね』
「いいだろう、相手は…」
「俺が相手になる」
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作者名:あまね | 作成日時:2019年2月4日 23時