第二十九訓 ページ30
_よし、今日の稽古は終了だ!
いつものように朝の稽古を終え、ぞろぞろと動き始めた頃
「全員整列しなおしてくれ」
近藤の隣に立った土方が声をあげた
部屋に戻ろうとしていたAはその場に立ち止まり土方へ視線を向けた
皆もなんだなんだと元の位置に戻る
「浪士組として任務が下ることが正式に決まった。内容は、治安維持を目的とした町の見回り及び不逞浪士の取り締まりだ」
_おォ!
その場の者たちから喜びの声があがる
「そこで、見回りにつく隊の編成とそれぞれの担当地域、時間帯を俺が考えた。今からそれを発表する、各自隊員とルートの地理もしっかり把握しておくように」
ここへきて一か月ぐらい経ったか
散々稽古に稽古を重ねるだけの日々を送っていた浪士組だがやっと活動開始だ
メモも見ずに淡々と発表していく土方
考えた本人なだけあって既に全員の名前とそれぞれの隊も頭に入っているらしい
「____以上だ。俺と近藤さん、そうg…沖田は暫くの間日や時間帯によって見回りにつく隊を変える。編成した隊のバランス確認や細かい地理も把握しておきたい。明日から見回り開始だ。それと、人数分の刀が配給された。明日に備えて手入れしておくこと」
土方の説明を聞き全員やる気に満ちた返事が揃う
なんだか解散になりそうな雰囲気だったため、Aは右手を挙げた
『はいはーい、質問』
「…なんだ柊」
『うんうん、ちゃんと名前覚えてるじゃない。…で、その柊がどの隊にもいないみたいだけど?』
呼ばれるのを待っていたが結局最後までAが呼ばれることはなかった
というかAだけが呼ばれなかった
「柊は見回りに参加しなくていい」
『……それはどうして?』
「……」
無言のまま見つめ合う、いや、睨み合う二人
重々しい空気が漂い始める
何秒か経ち一度目瞬いた土方は口を開いた
「柊、お前はここを出ろ」
『……』
「浪士組は遊びじゃねェ、人を斬って生きていく。それ相応の覚悟がいる。ちゃんと分かっているのか?お前にはもっと別の生き方があるだろう。松平公が認めただか何だか知らねェが、お前はここを出るべきだ」
今度はAが黙り、視線を地面に向けた
難しい顔で微動だにしないA
土方の言葉は他の者たちも思っていたことであった
女子供がこの組織でやっていこうだなんて、最初から無理があったのだ
『……フゥ』
やがてひとつ息を溢し、顔をあげたAは晴れやかな表情で答えた
『嫌』
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作者名:あまね | 作成日時:2019年2月4日 23時