意図 ページ7
︎︎小さくため息を吐くと、首元に指をかけて頭上へと引っ張る。ブロンズの髪が精巧に作られた面からぱらばらと解放されきるか否か、ふるふると頭を振って髪を下ろした。
「人遣いが荒いわよ、」
︎︎ジン、と続けて名を呼ぶ。彼女にとって今回の仕事は急遽割り振られたものだった。時間が無い中でのターゲットに扮する準備はベルモットにしかこなせないだろう。例えボスのためと言えどもジンに指揮を取られるのは、長年の付き合いだろうが何か思う節はあるのかもしれない。
︎︎単体行動を好む彼女は今回も少し計画から逸れた行動をしたのだが、それに不服を申しても無駄な会話となるのは目に見えるため、呼ばれた男は運転席の従順な自分の部下に出せ、とだけ言った。
︎︎発進した車中で話題を振ったのはベルモットだ。
「…ねぇ、Aを変装ができるように仕立てたらどう？」
︎︎これは前からジンに提案をしている話だ。彼女の見立てでは、ターゲットの真似は難しいがA以外の性別を問わない"誰か"にならなれると考えている。変装の目的は2種類あり、特定の誰かになる目的と、自分だと認識されない目的だ。つまり、Aの場合は後者なら任せられるとベルモットは考えているのだ。
「はっ、そんなに休暇が欲しいのか」
「違うわよ。あの子を評価しているの」
︎︎確かに2割…いや3割ほど当たりなのだが、ここは敢えて正直に話さず否定した。
︎︎ジンは何故そこまで推すのか、ベルモットは何故変装する仕事を与えないのか、お互いがお互いに対して疑問をもっていた。幾度となく交わしたこの会話。しかし今回は進展があるようで、ジンはボソッと言った。
「近々変装させる任務をやることになった」
「！、あら、そう！」
︎︎なら私が技術を教えるわね、という浮き足立つ宣言とは反対に、勝手にしろ、と返す彼は機嫌が悪そうだった。
︎︎どうやって教えるか早くも考えていた彼女は、ふいに思い出したようにそういえば、と切り出した。
「Aは最近、どう？」
「…どういう意味だ」
︎︎そういえばもなにも、そいつの話をしていたではないか、と訝しむ。普段と違うところはなかったか、と依然食い下がる言葉は、ジンの眉間の皺を濃くするだけだ。
︎︎その様子に彼女はそう、と一言言うと興味を窓の外へ移した。
︎︎運転席のウォッカはお通夜状態の車中を気にしながらも兄貴を安全にアジトへ送ることだけを考えていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時：2024年2月9日 16時
