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「戻りました!」
「お、見つかったんだ」
︎︎彼を梓が抱えているのを見て、オーナーは安心した様子。そんなホワイト職場に連れて来られたブラック組織の私は内心肩身を狭くした。
︎︎梓的には私が少尉を保護してくれたお礼として奢ってくれるそうだが、私的には人の猫に勝手に食べ物を与えていた側なので怒られる気がして内心びくびくしていた。ほら、ペットの体調は自分で管理したい人もいるでしょ?
︎︎まぁ許されてるし奢ってもらえるらしいし口には出さない。
︎︎カウンターに促すと、梓は大尉を従業員室へ連れていった。オーナーからメニュー表を見せてもらってココアを注文すれば、梓が戻ってきた。
「頼みました?」
『はい。…大尉は?』
「もう少しでシフトが終わるので連れて帰ります」
︎︎良かった。…ただ今まで抜け出して自分で帰ってきていたのなら、別に今離してもいいんじゃ?とは思う。まぁ米花町は物騒だしね。
「あ、そうだ。次の季節限定メニューの試食してくれませんか?」
『試食?』
︎︎ココアを受け取るとそう言われた。
︎︎ドリンクを奢ってもらうのに、ただで近日公開予定のメニューを教えてもらうだなんてそんなこと…。
「りんごタルトです」
『食べたい!!』
︎︎即決だった。
……
『ご馳走様でした』
「こちらこそ。洗い物までありがとうございます」
『美味しかったお礼です』
︎︎しっかり交流をしたら私を認識されるため、指紋と唾液をそのままには出来ない。だからただ自分で自分の痕跡を消しているだけだ。
︎︎『たまたまさっき買って〜』と常備している薄いマイゴム手袋を付けたまま水を止め、食器についた水を落とした。
「大体シフト入っているので、またいつでも顔を出しに来てくださいね、…お姉さん…?」
『…ははっ、名前教えてませんでしたね』
︎︎名前を知りたそうに眉を下げた梓は可愛いが、今のは距離を置くために頭の奥が冷えた作り笑い。流石に名前を教えずに終われないか。
︎︎もう潮時だが教えないのも変だと思い、ふわりと微笑んで答えた。
『黒塚よ。ろずって呼ばれることが多いから、そう呼んでください』
︎︎近しいジンとウォッカの偽名から取った苗字。名前は教えていないが、この言い方なら黒塚ろずだと思ってくれるだろう。ただ単に"くろづか"だから"ろづ"ってあだ名の設定だ。"くづ"は辞めた。
︎︎そしてそのまま別れを告げ、店を出た。
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作者名:ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時:2024年2月9日 16時