・ ページ27
『大尉ね〜』
︎︎貰うだけ貰って私の隣に座った梓の膝に丸くなった彼を見てぼやく。どう見ても大尉の風格に見えないが、口には出さない。名は体を表すが、彼は目標を名で表しているのだ、きっと。
「時々抜け出していくんです。まさか○ュールのためだったとは…」
︎︎そう呟く梓に愛想笑いして、(まさか放し飼いじゃなかったとは…)と少尉に目をやる。
︎︎そのままピンクの布に目がいき、初めの疑問を投げかけた。
『にしてもエプロンのままってことは、料理中だったんじゃ?』
「あ、これは喫茶店の仕事服なんです」
『…仕事大丈夫ですか?』
︎︎火の元の心配を解消したかったが、別の心配に変わっただけだった。流石に私のバイトでも仕事着のまま自分の飼い猫を探しには行けないが、彼女の場合はアットホームなのだろうか。
「オーナーに任せたので大丈夫です」
『そう…』
︎︎ガッツポーズを決める梓に圧倒されて相槌を打った。
︎︎…可愛いのに結構ぶっ飛んでるな、となんだか可笑しく思った。初対面の人を笑うのも良くないし、肩を震わせながらも笑いを抑える。
「可笑しいですか!?」
『いや…ふっ、可愛らしくて、くく…』
「やっぱり…すれ違う人の目が痛かったもんな…」
︎︎しゅんとする姿に抑えきれず郎らかに笑った。否定したのにやっぱりと返されたのもそうだが、表情が転がる様子もツボに入ってしまった。
︎︎昼間の公園。猫は欠伸をして、私は取り留めもない会話を暖かな気持ちで交わす。気の許せる友がいたら、梓のような人だろうか。
︎︎…きっと私が羨ましがっていた世界線は、こんな日常だったのだ。
︎︎あの日の決断に後悔はない。その事実はこれからも変える気は無い。しかし、憧れは切り離せなかった。
︎︎バイトだってどこか"普通"に憧れていた。勿論経済的理由もあるが、任務1つで度重なる美容代を充分に賄える。それに比べればバイト代は塵に等しい。
︎︎友人も、この丸まった少尉くらいだ。情を持てば弱みとなるため、敢えて遠ざけていた存在。その存在との他愛ない時間が○ュール1本分でも充分だった。なんの対価もない人間と友人のような時間を経験できるなんて思ってもいなかったから。
『梓さん』
「はい」
︎︎呼びかけたが続きを言うのは止めた。烏滸がましいし、私と関われば…。守れる自信が無い。取り消そうとすると、梓は良ければ、と口を開いた。
「お茶でも行きませんか?」
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時:2024年2月9日 16時