矛盾 ページ25
︎︎釘を刺したつもりだが嬉しそうな笑みで翻された。分かってるのか…？と小さく息を吐けば、Aは『それにしてもさ』と不貞腐れたように尋ねた。
『私ってそんなに見込みないの』
︎︎ちら、とバックミラーで顔を窺えば足元を見てしょげている姿が見えた。
︎︎俺はハンドルに添える手を入れ替える。
︎︎なんて言えば良いものか、なんて相手に対してあまり考えないが、らしくもなく言葉を探していた。
︎︎そのことに気付くと考えるのを辞めて言葉を返した。
「そこまでは言ってねぇ…が、不安要素ではある」
︎︎そう言って窓の縁に肘を置き、眉間に皺を寄せて思案に耽る。Aの任務を増やしたくない理由を自分でも明確にしていないのに気付いたのだ。
︎︎きっとAに遂行するほどの能力があるか懸念があるからだ。それは勿論失敗すれば組織に影響するのもそうだが、…。
︎︎その続きを認識するのは辞めておこう。いくら小さい頃から見てきたとしても、情を持っては任務に支障が出る。
︎︎…いや、"危険だから"と憂うのは信用出来る人間を手元に残したいという利己的な理由だ。それ以外の何物でもない。俺を信頼するウォッカと組織の中で育ったAは数少ないその人間。できれば俺の目が届かねぇ危険な橋を渡って欲しくはない、そういうことだ。
︎︎今、そう結論付けた。
︎︎どうもこいつのこととなると過去に捨てたはずの無駄な人間味が顔を出す。ついさっきも「組織に尽くす心意気は認めるが、これ以上は望んでねぇ」なんて口走ってしまった。組織への忠誠心は必要とあらば自身の命を捧げる程の気概がなきゃいけねぇくらいなのに、それをあいつには否定しちまった。
︎︎…ただこれも利己的な考えだ、と区切りを付ける。目的地まであと少しか、と運転に思考を切り替えていれば、後ろから言われた言葉に自然と笑みを零した。
『じゃあ不安にさせないくらい、完璧になってみせるわ』
︎︎少し不貞腐れたまま投げやりな言い方でそう宣言する。
︎︎胸を張って自信満々に言わないのがこいつの長所だろう。組織に染まりきっていないこいつの無邪気さが、俺の肩の力を緩める。張り詰めたこの世界で生き続ける俺がそんな休息を求めているなんて笑われちまうな。
「頼もしいじゃねぇか」
︎︎ベルモットがいる訳でもねぇが、緩んだ口元を隠すように顎に手を添えて返した。
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作者名：ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時：2024年2月9日 16時
