訓練 ページ23
︎︎ベルモットに任務へ連れられてきた私は、離れて色仕掛けをしている彼女を見ていた。彼女の声は私の髪で隠れたイヤホンから聞こえる。
︎︎ベルモットに言わせれば相手は自己肯定感が低く承認欲求が強いらしい。彼女は1目見ただけで身なりや姿勢、目線等で相手の性格を見破った。
︎︎研修みたいにメモをとれば、形に残すな、と口は厳しいが、少し得意げな表情だった。好きだ。
︎︎そして彼女は相手の性格に合わせ、響く言葉や雰囲気を選択して接触している。相手の過去や考え方を引き出し、落ち着いた艶やかな声で包容力ある雰囲気を出して褒めた結果、相手は自分という情報を垂れ流している。
︎︎こうして目的の情報とUSBメモリを得るのか、と感心していると、ウェイターが近くにいた。
「マダム、お水は」
︎︎…老けている訳では無い。
︎︎この同行は見学が主だが、変装訓練も兼ねている。座っているだけだがAではないため、気が抜けない。
︎︎仕事ぶりを見つつ、別人を装っていたからか、近づく気配に気付けなかった。内心苦い顔で『大丈夫よぉ』と嗄れた声で言えば、去っていった。
︎︎足音や視線に気付けるほど周りまで気を配れなくて悔しかったが、すぐ意識を彼女へ向けた。
︎︎ホテルルームに誘われたようだ。それとなく盗聴器を2回叩かれる。移動する、という合図だ。
(ベルモットの進捗を確認して出ようか)
︎︎そして任務達成の報告でお会計を済ませた。別々の出口からホテルの裏で合流した瞬間、目の前に車が停る。目を丸くした私の横を、颯爽とベルモットが乗り込む。
︎︎彼が雨蛙と評すその愛車に続いて乗れば、発車した。
「おいベルモット、」
「やーね、この子の指導を私に任せたのは誰かしら」
︎︎噛み付くように返せば、ジンは舌打ちをした。"この子"とは私だろう。何故かこの前からこの2人は私関連でピリつく。
「それにAがいればお迎え付きだし、同行させない理由はないわ」
︎︎何故ピリつくのか聞こうとしたが、口の端を上げた彼女の呟きで口を噤んだ。ジンが不機嫌に言う。
「俺の愛車をてめぇの足にすんじゃねぇ」
「随分耳が良いのね…でも愛しの車を走らせるの、好きでしょ?」
「はっ、てめぇのためなら御免だな」
︎︎2人の投げ合いを外野から聞く。いつもならこのハラハラするやり取りと2人の距離感が好きだと内心はしゃぐが、今日はどこか寂しかった。
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作者名:ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時:2024年2月9日 16時