一枚上手なあなたと満更でもない私【名探偵コナン】 (ページ20)

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『いらっしゃいませー…』

︎︎横の女に小突かれて俺に目を向けたA。今日はその計画の実行日だ。
︎︎バイト先を変えたのに訪れるとは、と顔を硬直させている。その反応は面白いがどんな状況であっても対象者に心の内を悟られてはならない。対応力はやはりまだまだだな。
︎︎2人きりとなったカウンターで、Aは口を開く。だが驚きすぎて声が出ないことに気づき、咳払いをしてから言った。

『ご注文はお決まりですか？』

︎︎その問いかけにこの近くに停めた車内にいるベルモットが、俺の服につけた盗聴器から聞いて拡声器で答える。

「いつもので」

︎︎あの時聞いた子犬の声だ。周りはマスクでくぐもった声に聞こえるだろう。
︎︎そいつの頼むものはある程度把握しているはずだ。だがそんなことはどうでもいい。ここでの正解は"ブラックコーヒー"。俺があの子犬ではなくジンだと見抜けられるか。つまりは洞察力の確認だ。

『すみません』

︎︎そう眉を下げて、お前のことは知らないという言葉を返された。店員としては満点かもしれない。しかし、色仕掛けの対象者に対して、俺に気付いていないことに関しては赤点だ。
︎︎色仕掛けの対象者には仕掛ける自分がリードをしなければならない。今の返しでは付け上がる人間や逆上する人間もいる。先日の感じではあの子犬は後者だろう。

︎︎ベルモットが事前通りにブラックコーヒーを頼む。

︎︎バイト先を変えた際に表と任務は分けているようなことを言っていたが、表の生活もこの組織に関わった以上脅かされると知るべきだ。やはりAに任すには早すぎたか、と結論付けるか考えながらAを眺める。
︎︎ベルモットは俺の杞憂だったと思わせたかったようだが逆に不安を煽る結果となったな、と思うと、

「僕以外に好きな男でも？」

︎︎と流れになかった問いかけをしやがった。
︎︎咳とも呻き声ともつかない声を出して反応したAを横目に車の方を睨む。Aに気付かれないように見えない場所へ停車させているため顔は見えないが見なくとも分かる。あの女、絶対笑っている。