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︎︎着いたのはフサエブランド。女性なら誰しもが憧れるブランドだ。
︎︎何故急に銅座駅まで来て黒の組織とは無縁な煌びやかな店に連れられたのか。
『なにか用事でも…?』
︎︎しかも入口から何十人も列を成しているのだ、待つのが嫌いなジンらしくもない。素の私自身もブランド物に興味がないため長時間待つのもな、と想像しただけで若干疲労する。
「ヴィンヤード様のご紹介で来られた方ですか?」
︎︎入口から歩み寄り、私たちに聞いた。黒スーツの襟に金に輝くイチョウのブローチをつけた店員だ。
︎︎どこかで聞いたことある名だと思い出していると、ジンが肯定の言葉を口にした。元彼の顔面からジンの声が出ていることに慣れないまま、店員の案内に従った。
︎︎ヴィンヤード...ベルモットの本名だ。私たちを通すよう口利きしてくれたのか。格の違いを感じると同時にそこまでしてくれるのは何故か疑問に思った。
︎︎並んで順番を待つ人々を横目に店内へ入ると、白を基調にブランドロゴマークである金色がアクセントとして使われた内装に感嘆の声を漏らす。女性が憧れる理由も分かる気がする。あの列から入店の順番が回った人達がショーケースを眺めたり店員と話したりしている。客1人につき店員が1人付くのか、客は10人もいなかった。
︎︎しかし私たちは奥へと案内され、多分VIPルームであろう客のいない部屋へ通された。既に1人店員が壁際に立っていた。
「ヴィンヤード様が少人数でとご希望でしたので、私と壁際の店員が担当させていただいていただきます」
︎︎そう言って一礼し、楽しんでと一言言うと身を引いた。VIPルームに入ったことがない私は落ち着かずに息を詰まらせる。
︎︎そんな私にジンは言った。
「兎みたいに怯えてんのか?」
『初めてなの!あなたは…違うようね』
︎︎緊張している私とは違い堂々とした姿をみて、経験の差を感じむすっとした。その私にジンは勝ちげな顔をする。
「妬いてるならそう言え」
『あなたの方が洞察力ないんじゃなくて??』
︎︎最近は冗談も交えた会話も増えつつある。上品に皮肉を言えるように努力をしているが、それでも今のように私のジト目の返答は変わらない。
︎︎ジンはふっ、と笑うと、
「俺がいる。気楽にしろ」
︎︎そう言って私をエスコートしてくれた。
︎︎確かにリードしてもらうのも悪くない。今回は経験の差があっても良いか、と密かに微笑んだ。
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作者名:ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時:2024年2月9日 16時