返上 ページ14
︎︎車に乗り込めばジンと助手席のウォッカ、それにベルモットもいた。歩道側の扉を締めると、助手席側の後ろに座るベルモットが私を見る。
「お疲れ様」
『お疲れ様…です』
︎︎帰りの動線だったのだろうか。でないとハリウッド女優が用のない場所に赴くはずない。
︎︎理解出来ずに彼女から目を離せないでいると発進した。
『...どこに行くの？』
︎︎運転手を見て聞くと、彼は右後ろへ「どこだ」と問いかけた。
「銅座駅よ」
︎︎どうやらこのドライブはお姉様の指揮下らしい。ジンは自慢のポルシェを好きに指示されているのが気に食わないのか、若干不機嫌。お姉様のことだと大抵不機嫌だが、息ぴったりに任務を遂行しているときもある。
「きっと気に入るわ」
︎︎目的は着くまで教えてくれなさそうだ。組織の人間は無駄話を嫌う。例外としてバーボンやスコッチは人の話が好きなのか、相手が機嫌を損ねない程度によく聞いていた。
︎︎私も疲れているときの世間話と同業者の不機嫌な表情は嫌いだ。今はバイト終わりで疲れているし着けば分かると受け入れた。
︎︎あの議論以降久しぶりのため、ベルモットとの話に花を咲かす。前方の空気と差が激しい。
「Aは物欲あるの？」
『お金と休息』
︎︎そう返すと呆れた目をされた。確かに休息は物欲ではないか。
︎︎なら何のために欲しいか、と問われて考え込んだ。
︎︎下っ端時代は組織から抜けて平穏な生活をするために貯金していた。今では同世代の平和ボケを羨ましいと思えど、幹部との今までの交流を無かったことにはできない程ここが気に入っている。
︎︎今日のバイトも任務のためで自分のためではない。
︎︎他の目的は。
『...スイーツのため？』
「あら、可愛らしい。さっきは組織に毒されたのかと心配したけど安心したわ」
︎︎そして私に微笑みかけるベルモット。気にかけてくれている口振りが姉のようだ。
︎︎暫くして停車した。
︎︎ベルモットとウォッカは用があるのか降りると、ウォッカは兄貴、と呼びかけて熱視線を送っていた。兄貴好き過ぎるだろ、と内心ツッコむ。そしてお姉様に目を移せば、楽しんできて、と美しい顔で言われた。
︎︎なんだったんだ、と遠ざかる2人を眺める。先程までと一変、静かな車内に残された私。すると、おい、と声を掛けられた。
「助手席に座れ」
︎︎なんとなく緊張しつつも、はい、と返した。
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作者名：ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時：2024年2月9日 16時
