来訪 ページ12
「最近シフト多いね〜」
︎︎平日の昼下がりにそう言われた。優しい雰囲気の正社員さんに金欠なので、と苦笑する。
︎︎実際は違う。最近やけにバーボンへ任務がいくせいで自分の任務が減ったためである。どうせなら美容代を今のうちに貯めておこうという魂胆だ。
︎︎ここはフラペチーノを社員割で飲めるから始めた。面接時にコーヒーを飲まされるとは思わなかったが、澄ました顔を崩さなかったためか合格した。
︎︎組織の一員としては恋人同士を色仕掛けの参考にできるからだ。
「あら、またあの子」
︎︎きゃっ、と私よりも若々しく私の肩を小突く彼女は先程も言いましたが正社員です。
︎︎入口に目をやると、このバイトで知り合い3日で別れた元彼がいた。そういえばあれから気まずくて別店舗のここに変えてもらった…のに、なぜ?
︎︎固まっている私に気を利かせたのか裏へと向かった社員さん。アットホームな職場だけど多分訴えたら私が勝つ。
︎︎彼は注文口へ来ると、私と目を合わせた。
︎︎咳払いをして営業スマイルへ変える。
『こんにちは。ご注文はお決まりですか?』
「いつもので」
︎︎風邪なのかマスクからくぐもった声で放った言葉に鳥肌が立つ。あの終わらせ方に後悔をした。
︎︎ただもう客と店員なので眉を下げた。
『すみません、存じ上げないので教えていただいてもよろしいでしょうか』
︎︎彼は呆れた目で頼んだことがないブラックコーヒーを注文した。そういえば今日は平日の昼だ。今日の曜日は大学があると話していた気が…。
︎︎手の先が冷えていくのを感じながら、会計を済まし、受け取り場所へ案内してコーヒーを作る。視線を感じるが目を合わせる度胸はない。
「僕以外に好きな男でも?」
︎︎ぐふ、と喉奥でくぐもった音だけに留めた私を褒めて欲しい。店員の自覚が目の前のカップに吐血するのを防いだ。
︎︎顔を見ずに乾いた笑いをすると低音気味に言った。
『あのメッセージが全てです』
「そこはおre…んん゛、僕は納得してない!」
︎︎低めの声でなにか言い直された気がして顔を上げる。彼はすかした顔をしていた。
︎︎気にするほどでもないか、と手元に目を戻す。
『…と言われてもあなたと私はお客様と店員です。業務妨害で訴えられるかお考えには?』
︎︎蓋を付けて完成させると"お客様"にニコリと両手で差し出した。
『ありがとうございました』
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作者名:ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時:2024年2月9日 16時