余裕 ページ2
『ああああぁぁあ゛ぁぁ』
︎︎ 現在私はスマホを頭の上に掲げてソファーに顔を埋めています。低反発のソファーから香るこの臭いはたばこの残り香だな。
服に染み込んだ香りがソファーにまで移るって、誰とは言いませんがヘビーなスモーカーですね。
最近、表向きの生活で知り合った男に告白をされた。毎度の如く舞い込む色気仕事で美容代に疲弊しきっていた私は、一時の金欠の凌ぎだと承諾をした。世界三大美魔女の妲己、クレオパトラ、峰不二子のように相手を財布に変えるほど、好きでもない相手からもらう好意を受け止め続けられなかったので、3日でギブアップした。
今日がその3日目で、さっき会ってきたばかりの相手のメッセージ画面を、この調子で10分ほど開き続けている。
相手との初デートが今日だった。エスコートなどがスマートじゃない上に親からの小遣いが収入資金だと聞き、内心耐えられない時間だった。
大学生だしバイトしていないのは全然いいけど、親からの金は自分に使えー!?というのが個人の考えだった。私にはそんな保護者はいないから、甘えさせてくれる人から受け取った全ては自分につぎ込むべきだと思う。
同世代との価値観の違いに若干寂しくなるも、背もたれに埋めていた顔を上げて、身体の前面をもたれかけながら、最低限相手を傷つけないような別れの文を作ると、メールを送ってから相手をブロックした。
私に普通とされる暮らしはない。ずっと昔にそれを覚悟してここにいるんだ、羨ましいなんて考えない。
俯きかけていた私の頭をポン、と大きな手が乗っかる。瞬間にふわりと香るたばこの匂い。
「だから俺にしとけって言ってるだろ」
言わんこっちゃないと言うような得意げな顔がそこにあった。彼のいつもの揶揄いに、らしくない今の私にとって普段の私を取り戻すのに助かると初めて思った。ふっ、と小さく笑うと、口答えするように話しながら手を退けた。
『ふん。煙草臭くて夏も暑苦しい黒ずくめさんは願い下げよ。私の判断は揺るがない』
2割ほど自分に言い聞かせた。
ジンはいつもの調子に戻った私を満足そうに見つめ、
「ふっ…そうかよ」
そう余裕そうに鼻で笑うと、私から目を逸らした。唇の緩やかな弧は崩されずに。
『む、むかつく…』
去った後ろ姿でもどこか機嫌がいいのが分かる。
私との会話で楽しそうな笑みになってくれたことに嬉しく思いつつも、余裕な雰囲気が悔しくて、そう呟いた。
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作者名:ねむとぅ(ー3ー) | 作成日時:2024年2月9日 16時