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ああでもしなければ彼の作品は正しい評価をされることもなく、埋もれたままになっていたのかもしれない。クライスラーが生きていた時代は、正しくそういう時代だった。
『.......確かに彼は嘘つきで有名ですけど、とても聡明で合理的な方だと私は思います。』
ふむ、と彼は言う。そういえばクライスラーは医者の家系だったかな?と。実はクライスラー自身、一度は医学部の大学で学んでいたこともあったらしい。けれど、彼は最終的に音楽だけで生活していく道を選んだのだ。
「確か、緑川さんも....」
森谷さんに告げられる前に頷いた。代々医師の家系です、と。
『そして、私も医師を目指しています。』
そう告げれば、森谷さんは興味深気に眉を上げて微笑む。
「医者と奏者の両立........これは面白い。ぜひ、やり遂げて欲しい。」
曲はこの二曲でいきましょう、と森谷さんは頷いた。
「−−−それではそのように。」
「よろしくお願いします。君の演奏を楽しみにしていますよ。」
『........森谷様のご期待にそえるよう、全力を尽くします。』
はははと彼は笑った。
「そう固くならないで欲しい。そうだ、演奏が終わりましたら、ぜひ緑川さんに見ていただきたいものがありまして。」
『.......私に?』
「ええ。実はちょっとしたクイズを用意しているのですが、その正解者に私のギャラリーをご案内する予定なんですがね。」
貴女には正誤に拘らず、見ていただきたいと彼は言う。
「無理を言って依頼を受けていただいたお礼ですよ。」
森谷さんの心遣いに文和さんを見遣れば、彼は苦笑しつつも頷いた。
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