蠱惑のイラクサ ページ15
その日の夜。秀一さんが久しぶりに勉強を見てくれるとのことだったため、彼の部屋を訪れていた。勉強を教えてもらうお礼としての演奏はまた後日ということになっている。
テーブルを挟んで、私が先程解いた問題の解答を添削してくれている秀一さんの姿を、頬杖をついてじーっと眺めていれば翡翠の瞳とぶつかった。
「−−−次の問題の解答に行き詰まったか?」
『..........ううん。全然別の事を考えてた。』
「−−−別の事?」
頷いてから、秀一さんって好きな曲ある?と尋ねる。そうした私の質問が意外だったのか、彼は片眉を上げると、添削し終えたノートを渡してくれた。それをチラリと見やれば、よりシンプルな解答法が書かれてあり、あぁ、秀一さんの解き方の方が綺麗だな、なんて考える。
「−−−好きな曲か......波土禄道の血の箒星、とでも言えば満足か?」
はどろくみち...?と呟いてから首を傾げる。有名な作曲家なのだろうかと考えながら彼を見上げれば、秀一さんは苦笑していた。
「どうやら意図する答えではなかったようだな。君が聞きたいのは君の領域内であるクラシック曲の中で、ってことか?」
『.....うん。実はこの質問は、私自身にされたものだったんだけれど−−−答えられなかったの。全然思いつかなかった。これまで沢山の曲を弾いてきたけれど、自分の好き嫌いという視点で曲を見てこなかったから。』
「−−−ほう。」
そう溢した後、徐に口を開く彼に注視する。クラシック曲については俺の領分ではないため今すぐには答えられんが.......と前置きが入った。好きな色ということなら答えやすい、と彼は言う。
『−−−色?』
「あぁ、ちなみに君の好きな色は何だ?」
秀一さんの質問に驚き、慌てて考え込む。様々な色味が脳内を駆け巡ったものの、自分の好きな色と聞かれてもピンとくるものがなかった。
「−−−共感覚.....色聴などの言葉があるくらいだ、音と色は関与する部分が少なからずあるだろう。要は、その曲やその色をイメージした時の自身の感情に注目してみてみると良い。」
秀一さんの考え方は.....時に斬新で、時に難しく、時にシンプルだ。私は彼の言葉を口内で一度反芻させてから、彼を再度見上げた。
『−−−それじゃあ、貴方の好きな色は何色なの?』
「...........。強いて言うなら−−−」
『.........強いて言うなら?』
「−−−黒だな。」
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