エメラルドに揺れる ページ8
荷物を持ったまま急いで部屋に迎い、扉をノックする。数秒後に開かれた隙間から左手を引かれ、吸い込まれるように部屋に入れば−−−秀一さんに抱きしめられた。
「−−−まったく、随分と無茶をする。流石の俺も肝が冷えたぞ。」
『ーーーうん、ごめんね。』
ゆっくりと腕を解かれれば、おもわずくしゃみをしてしまう。私の全身が濡れていることに気づいた秀一さんは、この部屋のバスタオルとバスローブを私に押し付けてバスルームに放り込んだ。
「−−−しっかり温まってから出てこい。風邪を引かれてはかなわん。」
扉越しに秀一さんの声が聞こえた。
何故かバスの中限定でゴホゴホしていた貴方にだけは言われたくないと思いながらも、右腕のハンカチと包帯を外していく。キッドのハンカチも赤黒く汚れてしまっていたため、これは買って返さないとなと頭の隅で思った。
「ーーーこの袋の中には替えの包帯は入っているのか?」
『うん、ガーゼも一緒に入ってる。』
「了解。準備しておこう。」
『あ、秀一さん。ハサミ持ってたりする?』
「ーーーナイフなら。」
日本だと長さによっては銃刀法違反だよ、秀一さん。
『その袋の中にね、新しい下着が入ってるから……タグを切ってて貰えると嬉しいなー、なんて。』
「……。お前は……いや、良い。やっておく。」
『ありがとうございます。』
右腕を庇いながら、濡れて張り付いた服を苦労して脱げばーーーあとは下着だけだった。
『……。しゅういちさーん。』
「ーーー今度はなんだ。」
『ブラのホック、外して欲しいんだけど。片手じゃやり辛くて。』
バスタオルを身体に巻きつけて扉を開ければ、仁王立ちしている秀一さんと目があった。
「……少しは恥じらいを持て。」
真顔で言ってくる彼がとても面白くて、思わず吹き出してしまう。
『はーい。でも、秀一さんには妹さんもいたでしょ?』
「あの写真を撮った日以来、真純とは会っていない。」
『へぇ。』
「俺だったから良かったものの、他の男なら君に誘われていると勘違いされても仕方ないぞ。」
『秀一さんは勘違いしてくれないんだ?』
「それなりに俺も経験を積んでる。お前のようなガキには役不足だ。」
彼の辛辣な言葉に頰を膨らませた。
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