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「マスコミ?今朝のバスジャックに巻き込まれた緑川と言えば…警部!!もしかして、」
「もしかして、君が緑川Aさんか?あの天才美少女バイオリニストの!!」
両肩を掴まれて、思わず仰け反る。
『ーーー天才か美少女かは分かりませんが……確かに私はバイオリンをしています。』
「そうかそうか!実は娘が君の大ファンでな、今度の火曜に江古田でリサイタルをするんだろう?随分前からチケットを買って楽しみにしてるんだ。」
『それは嬉しいですね。ありがとうございます。』
「警部、しかしあの怪我では……」
傍に控えた警察の方が中森警部に耳打ちすると、彼も気づいたようで同じく右腕をジロジロと見られた。
『ーーーあぁ、これくらい大丈夫ですよ。演奏には支障ありませんから。リサイタルも予定通り行わせていただきます。』
そう微笑んで言えば、彼もホッとしたように頷いた。彼の娘のためにサインをねだられそうになったが、また別の警察の方が中森警部にキッドの存在を思い出させたのだろう。持たされたペンを回収されてホッと安堵した。
「すみません、Aさん、ホテルまで送ってやりたいのは山々なんだが…私どもはコソ泥を追ってる最中でして−−−」
『気にしないで下さい。』
「しかし、」
「−−−でしたら、警部。私が彼女をホテルまでお送りします!」
先程まではいなかった若い警察官だ。この近くの交番に勤務しているとのことだが、無線を聞いて駆けつけてきたらしい。
「そうか、それなら彼女を頼んだぞ!」
「ーーーはっ!」
中森警部達が走っていく後ろ姿を見送りながら、一度屋根のある建物へと二人で避難をする。警察官の懐から出されたハンカチで右腕の止血をされると、ピリピリとした痛みに小さく呻いた。
「ーーーまったく、無茶をするお嬢さんだ。私のことなんて放っておけば良かったものの。」
『お兄さんのためにやったわけじゃ』
驚いて顔を見上げれば、ニッコリと微笑んでいる警察官。それは間違いないのだけれど、先程中森警部の話しを思い返せば、まさか、と思ってしまう。
彼は人差し指を立てて私の唇につけた。
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