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「さて、対位法とは要するに、神のもとに皆平等という思想の表れです。厳格な宗教人であったバッハは作品の随所に−−−−」
メロディーと伴奏、そこには主従関係が生まれやすいということだろうか。バッハの作品は特徴的だった。
河辺さんの話では、メロディーラインをただ一声と考えるのではなく、一曲の中には出演席が複数あって、それぞれ今はソプラノが歌ってる、アルトが歌ってる、テナーが歌ってる、バスが歌ってる....と考える必要があるとのことらしい。つまりは、ただ与えられたメロディーをそのまま弾くのではなく、同じ楽器であってもメロディーの高低差に基づく弾き分けが必要だということ。同じ旋律でも、ソプラノが歌ってるように表現するには音をキツめに装飾を速く入れたり、アルトの場合では音も装飾も柔らかく入れてみたり、というように。
隣から、袖を引かれる。千秋だ。
「ーーーー知ってた?」
『特に意識したことなかったかな。今度、もう一度さらってみる。』
「あたしも。」
それからも河辺さんの講義は続いた。♯(シャープ)はキリストが背負う十字架もしくは創傷を表し、♯(シャープ)が増えれば増えるほど受難を意味する曲になること。一方の♭(フラット)は長調ではブドウ−−−つまりは豊かさの象徴、短調では涙を表すことから曲想が変わってくるということだ。
「皆さんはダヴィンチ・コードをご存知ですか?バッハの楽譜も実はそれに似ているところがあります。今日、自宅に戻ったらじっくりと楽譜を見てみてください。彼は沢山の暗号を私達に残してくれています。」
セミナー後、早速バッハのパイプオルガンを見に行くのだろう学生の流れに逆らいながら、教壇に立つ河辺先生のところに向かった。
「先生の講義、とても面白かったです!」
「貴女達は確か、佐藤先生の紹介で来た生徒さん達ね−−−−どうもありがとう。」
千秋の言葉に河辺さんは微笑んだ。
「そうだ、来週の木曜に堂本記念コンサートのリハをやるんだけど聴きに来ない?今はメンテ中なんだけど、ストラディバリで演奏するのよ。それも堂本先生が弾くバッハのパイプオルガン、そしてソプラノ歌手の秋庭怜子とトリオで。」
「秋庭怜子さんって、今最も人気のある?」
「そうよ。才能もあり、それでいて努力家。怜子の歌声はピカイチよ。」
私と千秋は顔を見合わせて、頷いた。是非、聴いてみたい。
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