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『ーーー意識を戻してくれて、良かった。』
ドップラー効果を感じながら、救急車が去って行く姿を眺める。騒ぎを聞きつけて急いでやって来た文和さんに両肩を支えられながら、手助けしてくれた青年を見やった。
色素が薄く艶やかな髪に色白の彼は、落ち着いた雰囲気を醸し出しているけれど、見た目は思いの外若い。私とあまり歳も変わらないのではないだろうか。
「ーーー君も病院で右腕を手当てしてもらった方が良かったのでは?先程から不自然に庇っているように僕には見えます。」
青年の言葉に首を横に降る。
「あまり酷いようなら病院に連れて行きますからね。」
文和さんの容赦のない言葉に苦虫を潰した。
『ーーーわかってます。』
文和さんと私のやり取りを聞いていた彼は少しだけ片眉を上げると、苦笑を零している。
「成る程、君は病院があまり得意ではないようだ。
何かトラウマでも?」
『ーーー』
「ーーーもしくは、得意ではないのは杯戸中央病院の院長である君の父親のこと、ですか?緑川Aさん。」
彼の言葉に思わず息を呑む。文和さんが私を庇うように背中に隠してくれた。
「あぁ、失礼。僕は白馬探と言います。探偵をしているとどうしても追求してしまう癖がついてしまってね。」
『ーーー探偵』
安室さんと、一緒だ。
文和さんの背中から顔を出して彼を見上げれば、クスリと笑われた。
「一応、イギリスではそれなりに名が通ってると自負しているのですが、どうやら日本ではまだまだのようだ。」
『ーーーイギリス?』
「えぇ、普段は向こうにいるのですが、今回はある招待を受けまして一時帰国を。知ってますか?黄昏の館−−−−」
文和さんが僅かに反応した。黄昏の館とは、有名な所なのだろうか。
彼を見やれば首を横に振られた。
「詳しいことは分かりません。四十年前に惨劇が起きた館、という噂だけ。」
「そう。そして、その惨劇は巧妙に隠され、未だ謎のまま......それだけでも知的好奇心を刺激させてくれるものですが−−−−問題は招待状の送り主」
『ーーー送り主?』
<神が見捨てし仔の幻影>
彼の言葉が何故か耳をついて離れなかった。
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