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『ーーー秀一さん、お腹空いた』
「そうだな、何か頼むか。」
丁度夕食の時間になったためルームサービスを頼むことにした。
「ところで、日本では丁度受験シーズンか?」
『.......え?あー....うん。私は音高に内定貰ってるから、あまり実感はないんだけど。』
思わず苦笑が溢れる。
「......あまり行きたくないのか?」
察しの良い秀一さんのことだ。私の表情と言動から的確に推理してくる。
『ーーー行きたくないわけではないんだけど、本当にこれで良いのかな...って。音高に入れば音楽漬けの生活があるけれど、もっと、勉強をしなくても良いのかな....って。勿論音高にだって普通科目の授業はあるのだけれど。』
要は使用できる時間配分のバランスを不安に思っているのだと思う。音楽に力を入れている高校だからこそ、余計に。
カチャリと秀一さんはフォークを置いた。
「君の父親は確か.......」
『ーーー医師です。家系的にも医師が多くて。でも、別に医学部に行くことを強要されているわけではないんですけどね。』
「............そうか。」
『ーーーただ、私の尊敬していた人が医師で、少なからず私もそういう人になりたいって思ってたから。母さんもきっと両立を望んでいたのかなって思うし。どちらにしても、もう会うことはないだろうけれど。』
「−−−−良いんじゃないか?」
『ーーーえ?』
「プロのバイオリニストが、医師の資格を持つ。日本では珍しいかもしれんが、米国では二つの職業を持ってるやつなんてザラにいる。」
『...........。』
「日本の音高に入った結果、医学部に行けるかどうかはこれからの君の努力次第だろう。もし仮に日本のカリキュラムが合わなければ、米国での資格を取る−−−−っという手もなくはない。どちらにしても努力は必要だと思うがな。」
秀一さんの言葉に目を丸くする。音高に入ったからといって医学部を目指せないわけではない......その視点が私にはなかったからだ。重くささくれ立った心がゆっくりと解れていく心地がした。
『ーーーそうだね、そうだよね!.....うん、わかった。私、両立させてみるね。』
私の言葉に彼は、あぁと言って口端を上げた。
『あー.....あのね、秀一さん』
「どうした?」
言ってみろ、との言葉に思い切って口を開く。
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