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本当に、血迷った選択だったと思う。
ゆっくりと立ち上がった彼は
細身の体に、私より頭一つ分ぐらい背が高くて、
マスクと帽子の隙間からは
優しそうな目が薄っすらとこちらを覗いていた。
もしかしたら、何かされるかもしれない。
弱ってるふりしてほんとは強盗だったり......
なんて、一瞬考えたりもしたけど。
とりあえず出した昨晩のシチューの残りを
口一杯に含んで一生懸命に食べている姿を見ると、
やっぱり私の直感は間違ってなかったのかな、って。
「ごちそうさまでした！めちゃくちゃ美味しかったです」
『いえいえ、お口に合ったようで良かったです』
ほんと助かりました、と言いながら
ニコッと口角を上げる彼。
帽子を脱いだ時に現れた金髪には少し驚いたけど、
とても明るくて優しそうな印象だった。
「名乗り遅れました。僕はハンジソンと言います！
先ほどは本当にありがとうございました」
『私はキムAです。あの、ハンさん』
「はい！あ、ジソンで大丈夫ですよ」
『あ、じゃあジソン君、その...
なんで倒れていたのかって、聞いても良いですか？』
「...え？」
赤の他人が、どこまで踏み込んでいいのか分からない。
もしかしたら、彼にとって思い出したくもないようなことを
思い出させてしまうかもしれない。
...そんな事分かっていたはずなのに
つい、尋ねてしまった。
だって正直、謎でしかないじゃん。
全身真っ黒なのはとりあえず置いておいて、
まだ然程暖かくないこの季節に
なんで鞄も何も持たずに、薄いTシャツ一枚なのか。
それに、何というか
こんなどこでも愛されそうなキャラクターの彼が、
なんで私の家の前で、あんなにお腹を空かせて倒れていたのか。
「...Aさん」
『はいっ！！』
少しの沈黙の後、突然名前を呼ばれ
行き場を失っていた視線を再び彼の元に戻すと、
顔からはすっかり笑顔が消えていた。
...ああ、やっぱり。
他人の事情に、土足でズカズカと
私だって、もし逆の立場だったら
「えっと、」
目の前で突然、
何かを深く考える様な仕草をするジソン君。
早く、早く謝らないと。
気持ちが焦るばかりで、声は中々思うように出ず
結局、先に口を開いたのはジソン君だった。
「お願いします！！」
『.......え？』
「絶対に迷惑のかかるような事はしません！
どんな家事もお手伝いしますし、頼まれたら何だってします！
だからっ、だから...」
.
”少しの間だけ、僕をここに置いてもらえませんか？”
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作者名：ぴーよ | 作成日時：2021年3月13日 16時
