人魚尾形にしつこく海にひきずりこまれます【ゴールデンカムイ】

四十五 ページ45

女が目を覚ます
俺はじっと女が眠っているのを ベッドの傍で見ていた

　海へ戻れば もうお前に会うことはできないのかもしれない

　会っても俺の姿は 今とはだいぶ違う

　下半身は魚で 頬には手術の跡があり 見た目だって大人だ

お前は「俺」とは気づかないだろう・・・

そう思ったら 海へと足を運べずにいた

女は俺に気づくと 「ごめん。 心配かけた？」と笑う
俺は何も言わない

「君はケガしてない？ 大丈夫？」

お前の言葉に ただただ うなづく。


　 お前はどこまでお人よしなのだろう・・・

　 俺なんかの心配をして・・・ どこまで阿呆なのだろう・・・


「君は無表情で気持ちが読みづらいよ」
そう言ってお前が俺をからかうように笑う

薬のせいか まだ女の思考はぼんやりしているらしい



　 今なら・・・ 本当の事を話しても・・・


「なぁ・・・」

「ん？」

「もし・・・」


　 ”俺が本当は人間じゃないって言ったら・・・”


その言葉をいうことを戸惑う。 戸惑った。


　 お前はソレを知ったら また「俺」を見てくれるだろうか・・・？

　 他の人間同様 「異種」の目で 俺を見て・・・

　 あるいは もう近づいてこないのではないだろうか・・・？



　他の人間のように俺を狙うか？ 捕まえて不老不死の薬にしようとするか？

　 ダガ・・・ オ前ナラ イイトモ思ウ・・・

　 (お前が再び俺に近づいてくれるなら・・・ 理由などなんでもいい・・・)



　「俺が本当は・・・ こんな姿じゃないって言ったら・・・ どうする？」


なんとか絞り出したあいまいな言葉に、その問いに、女はぼんやりと俺を見る
意味を理解しているのか ただただぼんやり 俺を見る

俺の頬にゆっくりと 女の手が差し伸べられた
女の暖かく小さな手が触れる
その手に思わず すりついた


　 気持ちいい・・・

　 手放したくない・・・



　 −−− 認めるしかない


　 モウ トックニ トラエラレテイタ −−−


女が笑いながら 口を開く

俺の瞳から雫が落ちた
涙を流すのは初めてじゃないかと思うくらいに その涙は暖かかった





　 お前は俺にとって 祝福だった









　 「 君は 君だよ 」









オ前ノ傍デナイト モウ生キテイル意味ガナイ −−−

四十六→←四十四

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す