だれのものにもならないで (ページ4)

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SIDE 町田

━━飛び降りるのかと、おもった。

もうすぐシーズンがやってくる。
僕は普段のリンクでの練習に加え、
夜、ランニングをすることにしていた。

なんとなく外を歩きたい気分になり
ランニングしつつ遠くまで行こうと
いつもよりも少しだけ走るペースを下げる。

真夜中で何も見えないが、
次第にさざ波の音が響いてくる。

防波堤沿いを走っていると、その奥、
海の目の前に小さな背中が見えた。

女の子、と言うべきか、
女性、と言うべきか悩むくらいの
細く小さい背中が、海を見つめていた。

テトラポッドが敷き詰められた海、
周りが真っ暗なため何も見えないが、
こんなところで何をしているのだろう。

ふと頭の中に悪い考えが浮かび、
走るのをやめて、足音を立てないように
ゆっくりと彼女に近寄っていく。

彼女は、ひとり、泣いていた。

｢飛び降りたら、波に連れ去られるよ｣

当たり前だろうと頭の隅で思いながら、
僕は、当たり前のことをその背中に言う。

びくんとひとつ震えて僕に向き直ると、
不思議そうにその濡れた瞳で首を傾げた。

━━━━それは、ひどく綺麗だった。

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