だれのものにもならないで (ページ23)

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SIDE 町田

｢落ち着いた？｣

その瞳から涙が落ちるのを、
その唇から嗚咽が漏れるのを、
ただ隣で黙って見ていた。

彼女は、なにも、言わなかった。

それがこわくて、このまま彼女が
闇に溶けてしまうんじゃないかと
本気でそうおもって、恐ろしかった。

｢……ごめんなさい｣

しばらく経って、消えてしまいそうな声で、
彼女は自分が泣いたことを謝ってくれた。

｢気にしないで｣

彼女のなかになにがあろうと
彼女の過去にどんな重いものがあろうと
それが彼女のものならばきっと、
僕は受け入れて一緒に笑えるのだろう。

結弦の言っていた｢恋｣の意味が、
今、ようやくわかったような気がした。

｢……町田さん｣

消えそうな声のまま、
彼女は、僕の名前を呼んだ。

｢ん？｣

彼女の目は真っ赤だった。
たくさん泣いて、体力もかなり
消耗してしまったのかもしれない。
声がかなり弱々しかった。

｢……どうしてわたしに優しいのですか｣

この子を守っていたい、
ずっとそばで見守っていたい、
この壊れそうな身体を抱きしめて、
そして永遠に離したくないとそうおもう。

｢……なんでだろう、僕もわかんないや｣

優しくしているという実感がなくて、
はぐらかすような言い方しかできなかった。

僕は、きみの隣にいたいんだよ。

そんな言葉を飲み込んで、
Aちゃんを見て笑ってみせた。

彼女の優しい目は、遠い過去を見ていた。

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