だれのものにもならないで (ページ20)

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君がいなくなったあと、
なにも考えられなくなってしまった。
できることは歌をうたうことだけだった。

歌うたびにおもいだして、
歌うたびに泣いていたけれど、
だんだんとそんな感情もうすれた。

それが、逆に怖かった。

思い出さなきゃ覚えていられない。

毎日毎日考えていたのに、
次第に、心が頭が君を忘れていく。

だから、花の歌をつくった。

君を、忘れないように、
歌うたびに君を想えるように、

歌詞に込められた意味は、
わたしを置いて行った君への恨み言と、
わたしを好きでいてくれた君への恋心だ。

町田さんも、なにか感じたのだろうか。

彼はわたしの自己満足の歌を、
ただなにも言わずに聴いてくれる。

歌い終えた後も、
ただ上手だというだけで、
その先は言わないし何も聞いてこない。

彼の隣はすごく居心地が良かった。

もうすぐ、あの時間がやってくる。
彼がわたしの隣からいなくなった、

あのつらくてかなしくて、
死んでしまいたいほど苦しい時間が。

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