だれのものにもならないで (ページ19)

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SIDE 町田

そこに着くと、彼女はまだいなかった。
しばらく座って待っていると、
頭上から柔らかくて優しい声が落ちる。

｢町田さん｣

名前を覚えてくれたことが嬉しくて、
ついにやけそうになるのを抑える。

｢こんばんはAちゃん｣

綺麗な髪を下ろしたままにしている彼女は、
そのまま僕の隣に座ってくれた。

｢こんばんは｣

座ってから僕に挨拶の言葉をかけると、
そのまま目を伏せてしまった。

なにを、考えているんだろうか。

しばらく、沈黙が広がった。
だけどそれは気まずいものじゃない。
心地よい、あったかい沈黙。

｢今日も、花の歌、うたってくれる？｣

そうリクエストすると、
彼女はわかりました、と小さく笑い、
そしてその特別な声で世界を彩り始める。

━━あなたの知らない私だけがただ増えていく

切ない歌詞に胸を打たれてしまうのは、
繊細な旋律に心を持って行かれるのは、

たぶん彼女の声と感情が、
壊れてしまいそうなほど綺麗だからだ。

歌い終えると
いつものようにため息をつき、
そしてペットボトルの水を飲む彼女。

｢この歌、Aちゃんがつくったの？｣

僕の問いかけに、こくんと小さく頷く彼女。

この子の特殊な雰囲気は、
音楽を作ることで発揮されているのだろう、
僕には音楽の才能なんてないが、
彼女の声と曲が美しいということはわかる。

彼女の歌は、彼女の感情そのものだった。

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