だれのものにもならないで (ページ11)

今日:14 hit、昨日:0 hit、合計:23,903 hit

10 ページ11

・

━━ここは、わたしと君の、秘密の場所。

むかし君が泣いているわたしを
そっと抱きしめてくれた場所だから、

むかし君がわたしの歌を聴いて、
めちゃくちゃに褒めてくれた場所だから、

むかし君が、君がわたしの目を見て、
あの言葉を、言ってくれた場所だから。

言葉にしようとしても、
感情があふれて、声にならない。

黙ったままのわたしを不審におもったのか
彼はわたしの瞳を覗き込んで笑った。

不思議な雰囲気の男の人だな、
わたしのことを尋ねてはくるけれど、
答えはそんなに期待していない。

夜の空気に似合う、
優しそうな青年だとおもった。

｢ここ、思い出の場所なんです」

そうだ、思い出の。
あったかくて、苦い、思い出の。

君がいなくなってから何年も、
わたしはここで、小さな声で歌う。

｢そうなんだ」

普通の返事が返ってきて、
なぜか、すこしだけ笑ってしまう。

彼の空気は、安心する。
君の持つ空気と、すこし、似ていた。

.