検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:4,435 hit

一章『捕縛、其の弐』 ページ7

予想通り倉庫に着く頃には夜と夕の間だった。
群青の夜が降りようとして、橙の夕が支えているよう。
一日の中でどの空が好きかと問われれば、夜と夕の間と答える程、私はこの空の色彩が好きだった。

「さぁ、着いた。」
「え…普通の倉庫に見えますけど…
本当に虎は現れるんですか?」

心配そうに暗い倉庫の中を伺う中島君に、
今彼が考える最高の脅し文句を云う。
「中島君が居れば来るんじゃない?」

極めてにっこりした笑顔で和やかに云うと、

「おおおお脅かさないでくださいよ…!」
と期待通りの反応が帰ってきた。

「ごめん、ごめん。
でも大丈夫だよ、太宰と私が居るし。
虎なんて、軽く捻ってあげる。」

脅かせすぎたと反省しつつ、安心するように諭す。

「そうとも、安心し給え。
我々が居る限り、虎は君を傷付けはしないさ。
じゃあ、立花君は外を頼んだよ。」
「了解。其方はお願いしますね。」

太宰と中島君が中へ這入るのを見届けた後、
異能力を使い、倉庫の中に忍び込む。
この作戦において、外の警護など必要ない。
必要なのは内の警護。
多分必要ないけど、安全なのに越したことはない。

しばらく異能を使って潜んでいようとも思ったが、太宰に迷惑は掛けたくないため、時折異能を解くことにした。
何故このような考えに至るかと云うと、私の異能の特徴の一つに理由がある。
私の異能『陽炎』は平たく云うと、狼に化ける能力。
その『狼』が『私の中の獣』であるなら問題は無かったのだ。
『私の中の獣』ではなく、『私の外から下ろす獣』であるため、完全に私と狼は別の生き物で、意識がそれぞれにある。

長時間使用すると狼の意識に支配されてしまう。
そうなるともう自分の意思での解除が不可能になる。
が、異能力は異能力なので太宰の持つ異能力『人間失格』は通用する。
よって太宰に迷惑を掛けるため、長時間使用は億劫なのだ。

そろそろ異能を解いておこう。
途端に頭に衝撃が走った。

「ッ!?」

何が起こったのか解らない。
目の奥で星が散る。

鉄の落ちる音が倉庫中に響き渡る。
どうやら私は鉄パイプの下に潜んでいたらしい。

頭が滅茶苦茶痛い。割れてしまいそうだ。
若干涙目になりつつ痛みに耐える。

「────ッ!!!!」

中島君の声がした。
驚かせてしまったようだ。
涙目で外の様子を伺うと、暗闇を月明かりが照らしていた。
中島君には悪いが、直ぐそこまで時間が迫ってきている。

倉庫の窓からは既に青い月の光が覗いていた。

一章『捕縛、其の参』→←一章『捕縛』



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.2/10 (12 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
7人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

りノんと(プロフ) - むっくです!とても良かった!アニメ知らなくても楽しめた←応援してるよー! (2016年9月25日 16時) (レス) id: da89d499a4 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:永月はんと | 作成日時:2016年9月11日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。