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病院でじっとしている事が出来ないAは、未だ眠る杉元やインカラマッを家永と共に白衣を着て看病していた

そして負傷した第七師団の兵士達の様子も診て回っている


『………。』


Aは右手右足を失った兵士を診ていた

外されたヘッドギアの下は両耳のない頭

魘され額を流れる汗を優しく拭い、腕を取って少量のモルヒネを打つ

呼吸が落ち着いたのを確認し、その場を後にした

部屋に戻り衣服を脱ぎ、自分の傷の処置をする

奇跡的にあまり内臓は傷付いておらず動き過ぎなければ酷く痛むことはなかった


コンコンっ


シャツを着たところで扉が鳴る


『どうぞ』

「失礼する」


扉が開き、入って来たのは鶴見だった

鶴見は血の付いたガーゼや手ぬぐいを見て、Aのいるベッドに腰掛ける


「手当中だったかな?」

『いえ、終わりました』

「傷は痛むかね?」

『大丈夫です』


塵を端に寄せ、座り直す


「兵士達の様子も診てくれてるそうだな」

『他にする事ないので…』


ぽんっ


『!』

「感謝する」


頭を優しく撫でられ、何故だか目頭が熱くなる


「君が居てくれると助かる」

『…なんも…なんもしとらん…です…』


ポタポタと瞳から涙が溢れた


『これまでも、これからも…私はどこにも必要なか…』


鶴見の手は頭から頬に移動し、涙を拭う


「私は必要としている」

『…役に立ちません』

「そう卑下するんじゃない。今はまだこの傷が君を弱らせているだけだ」

『……っ』


涙を拭う手に頬を寄せれば、鶴見は子供をあやす様に軽く抱きしめた


「……。」


この時鶴見はほんの一瞬、己の大きくなった娘を抱きしめた感覚に陥った


『…鶴見さん』

「ん?」

『私…』


コンコンっ


「『?』」


何かを言おうとした時扉が鳴り、少しだけ開かれる


「失礼します。杉元が目を覚ましました」

『!』

「分かった。直ぐに向かう」

『わ、私も』

「傷に響く。ゆっくり来なさい」


鶴見は微笑みAの頭を一度だけ撫で、部屋を先に出た

バタバタと靴を履き、慌てて後を追いかけた


どんっ


『…っ…』


扉の前に立っていた兵士にぶつかり後ろに倒れそうになる


がしっ


肩を支えられ倒れることはなかった


「大丈夫ですか?」

『す、すいません』


体勢を直しながら謝ると目の前の兵士は顔を覗いてきた


「中尉殿が言っていたでしょう。ゆっくり来なさいって」


色が白く端正な顔立ちの彼の口元には2人の棒人間が走っていた


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げん(プロフ) - しろやぎさん» ありがとうございます!そのお言葉が最高です!頑張ります! (2023年1月9日 0時) (レス) id: a079014d07 (このIDを非表示/違反報告)
しろやぎ - もう最高!!全てが大好きです!! (2023年1月5日 9時) (レス) @page22 id: 99b2f3a031 (このIDを非表示/違反報告)
げん(プロフ) - くれはさん» コメントありがとうございます!とっても嬉しいお言葉です!励みになります!更新頑張ります!! (2022年12月28日 21時) (レス) @page16 id: 3da1d6569e (このIDを非表示/違反報告)
くれは(プロフ) - 文章構成や、ストーリーの流れて会話がきれいで読んでいてとても楽しいです!更新楽しみにしています! (2022年12月28日 14時) (レス) @page13 id: f312d035a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:げん | 作成日時:2022年12月22日 22時

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