銀色の災いは炎の人に恋をする (ページ8)

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フェンリルページ8

エースが見つけた、この印。

それは、私が怪物であることの証明だ。
私は船室の壁にもたれてため息をついた。

この船での戦闘に私は出たことはない。
私の事情を知っている兄様たちが、私に戦いを見せまいと早めに片付けてくれるからだ。
だから、今のところここで私が怪物になったことはない…なったとしても止める方法は教えてある。
けど、怖い。

万が一、怪物になった私をお父様や兄様たちが止められなかったら。
万が一、怪物になった私が、お父様や兄様たちを……

ああ、やめよう。こんなことを考えるのは。

目を押さえてたまま首を振った、その時。
大砲のものすごい音と男達の吠える声が船を揺らした。

どうやら新世界の命知らずなチンピラ達か、海軍かがお父様を狙ってきたらしい。
兄様たちならばすぐに片付けてくれるだろう…

だけど、ふと、脳裏によぎる人。
新しい弟の、あの子…
もし、万が一あの子に何かあったら。

そう思ったらとてつもない不安に駆られて私は船室を飛び出した。自分が怪物だと言うことを忘れて…

外では兄様たちが何隻かの海軍の軍艦相手に戦っていた。

「A！何やってんだよい！早く船には入れ！！」

響く怒号。響く大砲の音。微かに漂う血の匂い。

ドクンッ

と、瞳の奥が疼いた。

血。血だ。血だ血だ血だ血だ

ほしい。あれがほしい。あの匂いが

ホシイ

『A！』

疼く体。
誰かが叫ぶ声がした。
獣の力が覚醒されてクリアになった視界の奥で、海軍と戦ってたそばかすの青年が目を見開き、A…？と呟くのが見えたけど、もうワタシは私じゃなかった。

とある海で起きた四皇と海軍の戦い。
その戦場に突如現れた銀色の毛の、並みのそれより2、3倍は大きな狼の姿をした災いは艦隊を見回して猛々しく吠えた。