物理講義室の恋 ( yb×in )

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「‥おじゃま、します」


「おー、適当に座ってー」




初めて入る物理講義室は意外にも少し散らかっていた。

実験器具や資料が机に散乱していて、お世辞にも綺麗に整頓されているとは言えなかった。




先生は教壇に一番近い机に散らばっている資料を乱雑に退けて、俺に座るよう促した。
なんか授業で使う資料っぽいけど、いいのかな。






俺が腰を落とすと、腕の中にいたクロは特等席らしい窓側に、先生は準備室に入って行ってしまった。半分くらい開いたドアから少しだけ先生の姿が見える。





「そういえば、まだ聞いてなかった。お前、名前とクラスは？」


ひらひらと揺れる白衣を見つめていたら急に尋ねられた。





「‥‥1年2組、伊野尾慧。」

「ん、伊野尾な。はい、」




そう言って渡された真っ白なマグカップの中には、ブラックコーヒー。


ブラックなんて普段飲まない俺に砂糖とミルクは必需品だけど、目の前でごくごくとブラックコーヒーを飲む彼のこの教室に砂糖とミルクなんてものはありそうになかった。






意を決してマグカップに口をつけて、暖かいそれを少しだけ飲む。


ちょっとだけだったのに、口の中に苦味がこれでもかと広がった。





「...うぇ、」

「ふは、ブラック飲むの初めて？」

「...うん、....にがい、」





とてもじゃないけど飲めたもんじゃない。




無理して飲まなくていいよ、という彼の優しい言葉に甘えて、マグカップを置いた。







「...あの、先生って、サッカー部の顧問ですよね。」

「ん？あー、今日はちょっと。資料作りしないといけなかったから、キャプテンに任せた」

「そ、なんだ、」

「まあ俺がいてもいなくても同じ調子だからな、あいつらは」






先生の言葉に、部活中の大ちゃんの様子を思い出して思わず笑ってしまった。



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