ポッピングチョコレート ページ16
○HAECHAN
『マクヒョン、ヌナは？』
「雑誌の撮影だって」
『明後日じゃなかったの？』
「うん、なんか違ったらしい」
そういえば、今日は朝からヌナの姿を見ていない。ヌナのおはようも聞いてないし、ヌナと食べようと思っていたお菓子はまだ鞄の中にある。リハーサルまでには戻ると言われていたのに、もう曲も終盤だ。なんだかヒョンたちの表情もあんまり元気ではなさそうで、そういう僕も、早くヌナにくっつきたいなと思っている。
「…ナ、ヘチャナ」
『わっ、ドヨンイヒョン』
「あとはAが来てから調整するって」
『うん、わかった』
ヒョンの後をついていきながら、一度振り返って見える、まだ誰も座っていない客席を見つめる。もし、Aヌナがそこに座っていたとして、僕は絶対に、ヌナを見つけられるだろうか。反対にヌナは僕を、絶対に見つけてくれるんだろうか。
楽屋のソファーに座りながら、すぐにゲームオーバーになってしまった携帯の画面だけがピカピカと光っている。隣にいるマクヒョンはちらちらとこっちを見ているけれど、何か言いたいなら早く言って欲しい。
『マクヒョン、』
「わっ！何？」
『それはこっちのセリフなんだけど』
「いや、ヘチャニが」
『僕が何？』
「ずっとなんか、ふわふわしてるから」
マクヒョンの丸い目がこっちを向いて、大丈夫か？足は平気か？と肩をさすってくるけれど、マクヒョンにも隠せていなかったんだという衝撃のほうが僕に襲ってくる。しっかりしよう。そう思って画面を消せばドアの開く音がして、ヌナと一緒に行っていたマネヒョンが入ってくる。僕が勢い良く立ち上がったから、ヒョンが隣で大きな声を出した。
ヌナは？と聞けばステージだと言われて、気付けば楽屋を飛び出していた。走るなとか気をつけろとか言われているのはわかってる。それでも今は、早くヌナに会いたいのだ。
広い広い会場の、大きなステージの前の、ひとつの客席。誰かと話しているヌナを、僕は、僕が、いちばん最初に見つけた。
『ヌナ！』
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作者名：yom | 作成日時：2021年10月3日 16時
