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心の中で葛藤を続ける久々知のことなどつゆ知らず。
Aは黙々と久々知の懐を弄り続ける。
……ところで、皆さんは覚えていらっしゃるだろうか？
久々知兵助は狼煙をあげていた、ということに。
皆がAを探して裏裏山へと飛び出しているのだ、当然狼煙や物音なんかには敏感になる。
ならば当然……
「Aちゃ……ゑ゛！？」
「わ゛ッッッッ！かっ勘右衛門！これは決してやましいことでは……！」
誰かがその狼煙を見て駆け寄ってきてもなんら不思議ではないのだ。
駆け寄ってきた忍たま……尾浜勘右衛門は、あの高嶺Aが同じ組である久々知兵助を押し倒している異様な光景を目撃している。
しかも久々知の懐を無我夢中になって弄り続け、顔を出した尾浜のことなんて気づいちゃいないようだ。
久々知は尾浜の顔を見るなり、真っ赤な顔で慌てて否定しているが、現状が現状なだけあってその言葉の信憑性はゼロに等しい。
とはいえ好いている人物が目の前で他の男と乳繰り合っている(？)光景をみて好印象を持つ男なんてそうそう居ない。
尾浜は状況に追いつかない脳をなんとか追いつかせるべく、ぶるぶると頭を振るうと、久々知を押し倒しているAの両脇へと手を通し、そのまま引っ張った。
「ちょっと！どこ触ってんのよ！」
「それはこっちの台詞なのだ！！」
「は！？何言って……」
「…………」
どうどう、とまるで興奮している動物を手なづけるように尾浜がAを揺さぶる。
未だ顔が真っ赤の久々知のやけになった怒鳴り声を聞いたAは、改めて久々知の方を見ると、次第に視界を下へ下へと向けて口を閉じた。
黙った、黙ったぞこの女。
「Aちゃん落ち着いた？」
「……離せくそブス」 「わあ悪口」
勘右衛門は、冷静になったであろうAから手を離す。
Aは過去一であろう大きな溜息をつくと、先程まで座っていた丁度いい大きさの岩に腰掛けた。
額に手を当て、もう一度大きく溜息を付くAを横に、尾浜は倒れたままの久々知に手を差し伸べる。
すると、尾浜の手を借りて起き上がる久々知に向かい、Aは拗ねたように小さな言葉を溢した。
「ぶん殴ってでも止めればよかったじゃないの」
すっかり不貞腐れているAに、呆れたように笑う尾浜と、呆れたように溜息をつく久々知。
「女の子殴るなんてそんなことしないよ兵助は」と尾浜が言おうとした時、その言葉は久々知自身の言葉によって遮られた。
「おまえを殴るわけないだろ」
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作者名：タジロ | 作成日時：2023年10月3日 9時
