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おにぎりだ、何度見ても。
海苔は巻かれていないようだが、それは確かに三角形のシンプルなおにぎりであった。
Aは困惑する。
そりゃそうだ、散々豆腐を食わせるぞと追っかけ回してきたやつが、この食い与える最高の状況下で豆腐を寄越さないのだから。
包みの中のおにぎりを手に取れば、それはおにぎりの形を模した豆腐でないこともわかる。
狼煙をあげる久々知の背をチラリと見たのち、Aはおにぎりを一口頬張った。
知っている米の味、まばらな塩気、移動が長かったのかすっかり冷めている。
「よし、これですぐに誰か来てくれるはず……な！？」
狼煙がもくもくと空へと登っていくのを確認した久々知は、Aの方へと振り返る。
すると、そこにはぼろぼろと涙を流しながらおにぎりを食べているAがいた。
時折えずきながら、Aは袖で涙を拭いおにぎりを口に頬張る。
突然のことに久々知は困惑しながらも、手をワタワタと動かしてどうするべきか考えた。
「な、何で泣いてるんだ！」
「……うっだい、飯食ってる横で煙撒いてんじゃべーよ。ぐ……煙いのよ」
「煙いから咽せてるとかそういう次元ではないのだ！」
「なんで、なんで普通におにぎりなの。なんで豆腐じゃないの、なんでここに来てまで情けをかけるの。」
「……は？」
「……っ私のことをコケにするつもり、空腹なんだから豆腐を寄越せば渋々食べたかもしれないじゃない！！！！」
おにぎりを包みの上に置き、膝に手をついて視線を膝に向ける。
Aは大粒の涙をぼろぼろと流しながら、思いを訴えたのだった。
しばらく唖然としたのち、久々知は数秒間の思考の後、結果に至る。
……そう、高嶺Aは自分の愚かさに涙していたのだ。
そしてそんなことはつゆ知らず、そんな愚かなAに情けをかけ、豆腐ではなくおにぎりを手渡してしまった。
だが、久々知は言葉を詰まらせなかった。
何故か？
「渋々食わせたって意味ないだろ」
「……馬鹿にしてッ」
「俺はおまえに、豆腐を美味いと言わせたいのだ」
こんな状況下で、半ば無理矢理食わせるなんて俺の豆腐ぽりしぃに違反するからな。
と久々知は腕を組みながら、未だ泣いたままのAの方へと視線を向ける。
むっすりと口元を窄ませながら、かつ言葉を選んでいるように久々知は辺りを見渡すと、そっとAに手を伸ばし、優しく涙を拭った。
「情けなんかじゃない、だから泣くな。」
「……豆臭いのよ、このぼけ」
「はいはい」
「かす」
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作者名：タジロ | 作成日時：2023年10月3日 9時
