はい、あーん！もういっちょ！【忍たま】

141　→何事にも妥協しない先輩 ページ47

「な、なんで座って……？」
「え〜？だぁ〜いすきな先輩にお疲れ様の抱擁をするためけど〜？」
「は、はあ」

こんな冗談を言う人だっただろうか？と金吾は思わず首を傾げる。
まあ仕方のないことだ、綾部といえば穴を掘ることにしか興味のない穴掘り小僧のイメージが強い。
金吾の中では、五年生の美人な先輩に抱擁をするためにわざわざ座って待機をしているような人ではないのだから。

未だ木刀がぶつかり合う音が激しくなる中、またしても近づいてくる足音。
何事かと振り返ると、今度は三木ヱ門と浜がそこにはいた。

「喜八郎！何をやってるんだ！？」
「守一郎には教えないあーい。てか誰にも教える気なーい」
「……あれ、高嶺先輩じゃないか？」

「なに！？！？」 「げ」

ユリコの散歩を兼ねて雑談をしていたのだろう。
座っていた綾部の視線の先を追った三木ヱ門は、その場から距離を取った場所で木刀を持って戸部と戦っているAが見え、呟く。
するとそれに聞き耳を立てた浜は、ぐわ！と身を乗り出し我が一番にと前に出る。
それを見た綾部は露骨に不機嫌そうにむすっと表情を変え、浜の忍び装束を引っ張った。

「守一郎邪魔〜」 「！ああ、ごめん！」

Aガチ勢の浜は、綾部に呼ばれて我に返った様子。
慌てて謝罪をすると、そっと綾部の隣に腰を下ろして一緒に観戦しだした。
そうなると自然に三木ヱ門も浜の隣に腰を下ろし、Aと戸部の戦いを見出す。

最初に比べ人数が増えた観戦席に多少ばかりだが金吾は驚きながら、そっと視線をAへと戻す。
「苦手」と言っていたのが嘘に見えるほどに全てを魅了する戦いぶりに思わず息を呑むと、そっと三木ヱ門が言葉を溢した。


「……これで苦手って……高嶺先輩の中では妥協ラインですらないのか」


それに続くように、綾部が踏鋤を握りながら言う。


「そりゃそうでしょ、A先輩、中途半端だいっきらいだもん」


更に続くように、浜は笑顔で言った。


「A先輩らしいよな！俺、A先輩のそういうところ、大好きだ！」


個性派集団である四年生が挙って首を縦に振っている。
そんな異様すぎる様子を見て金吾が唖然としていると、なにかを考えた様子の綾部は、ぽん、と緩めに金吾の肩を叩いた。
「え？」と声を上げて綾部の方へと振り返る金吾だったが、綾部の視線は未だAの方に向いたまま。

すると、どうだろう


「金吾さ、A先輩のことちゃーんと見なきゃだめだよ〜？」


と、言ったのだ。

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