132 ちゃりん ページ38
時が経ち、その日の晩。
人通りが少なめの廊下にてAは小さく溜息を吐く。
その後、懐からきらりんと輝く小さな銭を取り出すと、そのまま床へと落とした。
ちゃりーん!
「あひゃっひゃ!小銭!小銭ィ!」
「……来たわね」
小銭の音を鳴らせば、きり丸が走ってくるのは想定内であった。
床に落とした小銭をご機嫌に拾い上げるきり丸を見ながら、Aはそっと言葉を溢すと、辺りの気配を探る。
頭に生えている毛一本から爪先まで神経を集中させているが、特に感じる気配は無し。
……恐らく不破と鉢屋は、今回の件は房中術とは別件であると判断したのだろう。
確かにあの場で「どこで落ち合おう」とは言っていなかったが、同級生を付けるぐらい五年生なら造作もないはず。
だが、現在はこの場にいるのはきり丸のみ。
天井裏にも、床下にも、前にも後ろにも不破と鉢屋はいないだろう。
「……失敗ね。まあこんなもんでしょ」
「?なんのことすか」
「良いのよ、馬鹿が無駄なことに頭使わないの。」
「な゛!馬鹿とはしつれ」
「ん」 「あひゃあ!さっすが高嶺先輩!」
相変わらずのAの口の悪さにカチンときたきり丸だったが、Aが懐から取り出した袋を見るなり態度をころりと変える。
それもその筈だ。その袋からは確かに、銭同士の擦れ合う「じゃらじゃら」というきり丸にとって心地良い音が聞こえていたから。
ぱっ!と投げ渡されるなり、きり丸はご機嫌に銭の入った袋を抱き寄せて笑う。
きり丸が受け取ったのを確認すると、Aはその場を去ろうとしたが、きり丸はその足を呼び止めた。
「あの、御用件は……?あれだけでいいんすか」
一応報酬を貰っているのだ、きり丸にも思う部分があるのだろう。
任務の可能性もあるし、あまり踏み行った質問もできないため、かなりふわっとした聞き方であったがそれを聞くなりAはゆるりと笑った。
「あれだけ、なもんですか。あんたは十分、私の無茶振りについてこれてたわよ。」
なんの前触れもなく。突然の耳打ちにあの振り。
確かに銭次第でよく動くやつだとは認識してはいたが、想定以上だったのは事実だ。
「お疲れ様、寒くないようにして寝なさい」
薄暗い廊下を灯すひかりが、Aの顔を照らす。
思わず見惚れるほどに儚く、美しい笑みを浮かべており、恋愛的に好いてなくとも見惚れるには十分であった。
のちにきり丸は語る。
「めっちゃ美人だった。俺もファンになりそう」
……と。
二日目、終了。
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Lynn - タジロさん» Lynnです。今見ました、戸部様を出してくれてありがとうございます!内容的には面白かったですし、これからもこのシリーズ、続いて欲しいと思ってます (8月31日 15時) (レス) @page45 id: b7c4ae609e (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - タジロさん» はじめまして!初コメントがこんなのですいません…作品は愛読しています!新野先生だったんですね…医学の心得があるからでしょうか?これからも応援しています! (8月19日 23時) (レス) id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
タジロ(プロフ) - めろんぱんさん» はじめまして、コメントありがとうございます!ですね。高嶺の言っている通り房中術は授業で一度限りですが終えております。お相手は高嶺ちゃん資料集に書きまとめましたので顔ありの夢主が地雷でなければ是非ご覧ください……! (8月19日 23時) (レス) id: bcff2be84f (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - 主人公ちゃんは房中術をやったことがあるんですか…? (8月19日 23時) (レス) @page41 id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
Lynn - タジロさん» タジロさん、仕事の方も更新の方も体に気をつけて頑張って下さい。昨日はなんか申し訳なかったです。 (8月6日 16時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タジロ | 作成日時:2023年5月10日 2時