121 求む火薬委員 ページ27
「……じゃあ、お言葉に甘えるわ」
じり……
耳鳴りと心臓の音がうるさい中、久々知は顔に熱を帯びながらぐっとその場で踏みとどまる。
少しずつ近づいてくるAは口を閉じており、黙っていることもあり美人が強調されていた。
どくん、どくん、どくんどくんどくんどくん。
え、嘘だろうここで!?今すぐ始めるのか!?
戸惑いを隠せない久々知は、わなわなと手を震わせている。
「どんとこい」だなんて決意表明をしたは良いものの、Aとの距離が目と鼻の先になった久々知は、耐えきれずに目を閉じた。
ぎゅ!眉間に皺を寄せながら瞼を下ろしている久々知は、火薬庫以上の真っ暗な視界で、Aに正直に述べた。
「やっぱり無理だ!心の準備が足りてない!せめて皆が寝静まった夜に先生方に部屋を設けてもらっ……!」
「そこの火薬を寄越してほしいの。今度火縄銃の実践テストがあるから練習したくて」
「……は?」 「あ?」
かやくをよこしてほしい?
聞き間違いかと思い、間抜けな声を漏らしながら下ろしていた瞼を上げる。
すると、先ほどまで目と鼻の先にあったAの顔は、目を閉じているうちに真横を通り過ぎていたようで、すぐ後ろの火薬が並んでいる方へと向いていた。
現に、久々知の隣ではAがその棚を指差しながら久々知を呆れた様な眼差して見つめている。
「え、て、てすと?」 「なに?耳に大豆でも詰まってる?火縄銃の実践テストがあるって言ってんの」
顔の熱が冷めていく感覚がわかる。
久々知の慌てていた脳もゆっくりと冷静に考えることができる様になり、全ての話に理解が追いついていった。
火薬庫に呼び出されたのは、火薬が欲しいから。
俺を呼び出したのは、俺が火薬委員会委員長代理だから。
土井先生と俺以外の選択肢が無かったのは、沢山の火薬の使用許可を得るにはこの二人が最適であったから。
……高嶺自身が一切恥じらいを持っていなかったのは……房中術のことでは無かったから。
「っぷ。何よあんた。顔が茹蛸みたいよ。不細工ねえ」
「うっ!うるさい!そんなに火薬が欲しければこの豆腐を食うのだ!」
「はあ!?意味わかんないんだけど!」
冷めていた顔が、今度は別の意味で再度熱を帯びていく。
勝手に房中術のことだと勘違いしていた久々知は、羞恥心によって真っ赤に顔を染め上げ、半ばヤケクソにAに豆腐を押し付けたのだった。
当然、Aはその豆腐を口にしていないし、火薬も貰えたなかった。
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Lynn - タジロさん» Lynnです。今見ました、戸部様を出してくれてありがとうございます!内容的には面白かったですし、これからもこのシリーズ、続いて欲しいと思ってます (8月31日 15時) (レス) @page45 id: b7c4ae609e (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - タジロさん» はじめまして!初コメントがこんなのですいません…作品は愛読しています!新野先生だったんですね…医学の心得があるからでしょうか?これからも応援しています! (8月19日 23時) (レス) id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
タジロ(プロフ) - めろんぱんさん» はじめまして、コメントありがとうございます!ですね。高嶺の言っている通り房中術は授業で一度限りですが終えております。お相手は高嶺ちゃん資料集に書きまとめましたので顔ありの夢主が地雷でなければ是非ご覧ください……! (8月19日 23時) (レス) id: bcff2be84f (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん(プロフ) - 主人公ちゃんは房中術をやったことがあるんですか…? (8月19日 23時) (レス) @page41 id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
Lynn - タジロさん» タジロさん、仕事の方も更新の方も体に気をつけて頑張って下さい。昨日はなんか申し訳なかったです。 (8月6日 16時) (レス) id: 3d10a0695d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:タジロ | 作成日時:2023年5月10日 2時